CD No.:GZCA-5001   Release:2001年07月04日

曲目 作詞 作曲 編曲
1. PERFECT CRIME 倉木 麻衣 徳永 暁人 徳永 暁人
2. Start in my life 倉木 麻衣 大野 愛果 Cybersound
3. Reach for the sky 倉木 麻衣 大野 愛果 Cybersound
4. Brand New Day 倉木 麻衣 大野 愛果 徳永 暁人
5. Stand Up 倉木 麻衣 徳永 暁人 徳永 暁人
6. Come on! Come on! 倉木 麻衣
Michael Africk
Miguel Sa Pessoa
Perry Geyer
Michael Africk
Cybersound
7. always 倉木 麻衣 大野 愛果 Cybersound
8. What are you waiting for 倉木 麻衣
Keith Bazzle
Tomoo Kasahara
YOKO Black.Stone
YOKO Black.Stone
9. think about 倉木 麻衣
YOKO Black.Stone
YOKO Black.Stone YOKO Black.Stone
10. 冷たい海 倉木 麻衣 大野 愛果 Cybersound
11. Reach for the sky GOMI REMIX
-Radio Edit-
Remix : GOMI
12. いつかは あの空に 倉木 麻衣 大野 愛果 Cybersound
13. The ROSE〜melody in the sky〜 倉木 麻衣 大野 愛果 大野 愛果

オリコンデータ
最高順位1 位
登場回数17 回
初動枚数800,210 枚
累積枚数1,303,860 枚


 私は「倉木麻衣論」で,「第2作"Perfect Crime"における倉木の立場は多少中途半端である」と書いた。このアルバムは「ヒット曲の寄せ集め」の色合いが濃く,トータルな意味での「アルバム」としての香りがしない。(実は「隠し味」があるのだが,それに関しては後述。)

 リミックスの「Reach for the sky GOMI REMIX」も含めれば13曲中8曲がすでにシングル発表された曲。先行発売したシングル曲をすべてアルバムに収録するのが近年の日本ポップス界の風潮だと聞くが,セールスのことだけ考えればそれもありかもしれないが,アルバムをアーティスティックに捉え,一個の芸術作品と考えたとき,個人的にはこの傾向には大きな疑問符がつく。時代は全く違うのだが,もう40年も前にはなるが,ビートルズは一つのセッションで生み出された最もキャッチーな曲をアルバム発売に先立ってシングルとして発表し,同傾向を持つアルバムの「予告編」的な意味を持たした。しかし,そのシングルは当アルバムには収録されず,アルバムはアルバムとして独自のスタンスを保つという方法がとられていた。たとえば,1967年にシングル「ストロベリーフィールズ・フォーエヴァー/ペニー・レイン」が発表された後,その世界観をさらに発展させたアルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」が発表されるが,このアルバムには先行するシングルは収録されず,またその後も1枚のシングルカットもされることがなかったが,現在でもポピュラー音楽史上最高のアルバムといわれ,高い芸術性を誇るとともに巨大なセールスを保っている。日本でも,1960年代,70年代は同様ではなかったかと思うのだが,音楽をアートとして大切にするのならぜひそういった「正道」に立ち戻ってもらいたいものだと思う。現状では1年に1枚「ベストアルバム」を発表しているようなものではないか?!

 アルバム全体のムードはなぜか「重苦しい」。「Stand Up」,「Brand New Day」などの軽快な曲を多く含みながらなぜだろうと考えると,やはりタイトル曲の重々しさが全体を支配していることと,アルバムジャケットの倉木の見せる大人びた深刻な表情のせいであろうか。ちなみに,このアルバムジャケットは大成功した前作「delicious way」を強く意識したものになっている。ジャケットにおける倉木の位置はほぼ同じ,表情も同じ,顔の大きさは「delicious」が(顔中央の髪の生え際部分からあごの先まで)66mm,「Perfect」が70mmとほとんど変わらない。ただ大きく違うのは全体の色調が赤を基調としたカラーになっているところか。ちなみに次回作「FAIRY TALE」でもこの傾向は続く。ヘアスタイルが違うので完全な比較は難しいが,倉木の顔は前2作とほぼ同じ場所に配置され,頭頂部の切れ方もほぼ同じ。顔の大きさは66mmと,これも同じである。ただ違うのは色調が「緑」になっているところと,「delicious」では髪の毛をつかんでいた倉木が,2作では赤い花を,3作では緑のリンゴを手に持っている。ケース裏側の写真も3作とも倉木の立ちポーズで,基本的には同じ。次の第4作「If I Believe」では,構図ががらっと変わるので,この3作は後世「アルバム初期3部作」と呼ばれるようになるのかもしれない。

 徳永暁人のペンになる「PERFECT CRIME」 は,アルバムのオープニングナンバーにはふさわしくないほど重い。サスペンスドラマの主題歌にもなったようだが,それを意識しすぎたか?ただ,詞の内容は曲調とは似つかわしくないほど前向きで,希望に満ちているのが不思議。

 相変わらずこういうヘヴィな曲での倉木の歌詞の意味は分かりづらいが,ここでは"perfect crime"は「成功するもの」としては語られていない。むしろそんなものはありえないからそこから抜け出して新しい人生を見つけようという,いつもの楽天的な倉木節。最後は"You can find the way out"(抜け出す道はきっとある)といつもの人生肯定的応援歌になっている。不思議な世界。

 ちなみに"I can stop the loneliness."は杏里の「悲しみが止まらない」(1983)で"I can't stop the loneliness."と歌う裏。何かサジェッチョンを受けているのか?

 「Start in my life」 は曲に関してはシングル解説で書いたが,「PERFECT CRIME」の次の2曲目にあると前曲の重々しさを中和してくれ,ほっとする瞬間を作ってくれる。そしてこれも人生肯定的応援歌。

 そして,3曲目の「Reach for the sky」 もやはり人生肯定的応援歌。気になって全曲のテーマを確認すると,重苦しく未来への希望が感じられない曲は「think about」と意外なことに「The ROSE」の2曲だけ。上で,「「ヒット曲の寄せ集め」の色合いが濃く,トータルな意味での「アルバム」としての香りがしない」と述べたが,音楽的にはトータル性を感じないものの,実は歌詞の意味を詳細に見てゆくなら,アルバム全編を通して「さあがんばろう!人生まだまだこれからだ!」という人生肯定的なメッセージが読み取れる。意外なところで非常にポジティブなトータル性を感じてしまう。倉木側の狙いは実はここにあったのかもしれない。だとすれば,なんという周到な「作戦」であろうか。

「Brand New Day」 も軽快な人生応援歌。いつも思うことだが,倉木という人は非常に多くのボーカルパターンを持っている。「七色の声」を使い分けることができる彼女は,ここではややコミカルな色合いを持たせて「普段の自分と違う」声で,「普段の自分と違う」新しい明日を見つけに旅に出る。この曲の主人公は「列車」という伝統的な移動方法と「万年筆(水性サインペン?)」という伝統的アナログ器具でメッセージを残す。倉木の曲が,ただ同世代の若者だけでなく,私のような高度経済成長を経てきたものに大きな感動を与え続けているのは,実はこのような「アナログ性」に原因があるのかもしれない。ちなみに彼女自身の著書「myself music」(p.105)によると,この曲はなぜかディレクターにも放って置かれたためコーラスラインは自分で考えたということ。そういうことができる才能があれば,やがて"music written by Mai Kuraki"という曲が登場するかもしれない。楽しみなところだ。

 「Stand Up」 は爽健美茶のCMソングであり,爽健美茶がキャンペーンとして開催した「happy live」のテーマソングでもあったので,完全にライブに特化した曲。「happy live」ではオープニングを飾ったが,最近のライブではエンディングかアンコールで歌われることが多い。ということで,歌詞にはあまり大きなメッセージはない。しかし,飛び抜けて明るい人生応援歌。ただそれにしては曲の構成は余りに複雑。

 「Come on! Come on!」 は作詞にマイケル=アフリックが参加しているため,英語詞に今までには見られなかった熟した表現が多い。しかし,これは倉木のアイデアだろうが,英語と日本語を混ぜ合わせ,"to hazumu"と"to rhythm"で韻を踏ませてみたり,随所に楽しい遊び心が満載のアップテンポの底抜けに楽しいナンバーとなっている。ここでの倉木は他の曲にもまして明るい。

 「always」 は本アルバム中最もはっきりした人生応援歌。セールス的には芳しくなかったようだが,スタンダードとして永く生き続けていきそうなムードを感じる。

 最近のJ-POPの曲は,歌手自身が作詞を担当することが多いというせいもあり,内容が非常に個人的であることが多い。(J-POPと呼べるかどうかは別にして)モーニング娘。の曲などはそのグループ名自身が歌いこまれていたり,氷川きよしの「きよしのズンドコ節」(J-POP?)のようにタイトルがパーソナルであったりする。そのために永遠のスタンダードとして,数多くのアーティストにカバーされ続けていくということは考えづらい。

(たとえばジョン=レノンの場合「イマジン」はカバーできても「オー・ヨーコ」は誰にもカバーできない。)

 倉木の場合もほとんどすべてが自作曲であり,パーソナルな内容を含む曲も多く,スタンダード・ナンバーにはなりにくい曲も多い。たとえば,「happy days」は意味を考えれば他人がカバーすることには抵抗を覚える。しかし,この「always」だけは,そのような呪縛から解き放たれて,永遠の「人生応援歌」として歌い継がれていくスタンダードになりそうな気がする。そうすればセールスも,それらカバー全体を考えた場合,決して「Love, Day After Tomorrow」には負けていないのである。

 「What are you waiting for」 は暗い曲調だが意外にも強い決意を持った前向きな曲。歌われるのは決して「恋愛」ではない。多少うがった解釈を試みれば,こうも考えられる。

 「歌手になる前の普通の高校生のときには,夢はいっぱいあったけれど,今のようなトラブルに巻き込まれるとは思っていなかった。あちらこちらでいわれのない非難中傷を浴び,ワイドショーのネタとなり,自分でも自分を見失いそうになった。とても苦しかったけれど,悩みぬいて私には分かった。やっぱり私はシンガー。私には歌しかない。どんなことがあっても私は歌さえあれば大丈夫。だからみんなもくだらないゴシップではなくて,私の歌を聴いてください!」

 この曲はやがて「natural」や「SAME」となって結実する,倉木の「プライム・スクリーム」の前ぶれであったのかもしれない。倉木という人間はどこまでも正直な人だ。

 「think about」 はこのアルバム中唯一と言っていいほどの失恋鎮魂歌。ここには前向きな楽天性は微塵もない。情けないほど終わった恋を嘆く歌姫の姿が登場する。他の曲に比べても異質だが,この曲の共同作詞者に作曲者のYoko B.Stoneの名があるので,最初Yoko氏が「仮詞」としてつけていた世界を倉木が尊重したと言うことではないだろうか。

 「冷たい海」 も暗い曲だが,シングルのところで解説したように,少年犯罪の続発が喧伝される当時,この「子どもが暮らしにくい時代」に生きる子どもたちへの応援歌であった。ということで,この曲も内容は少しも暗くない。それどころか,倉木は菩薩の顔をもって,子どもたちにありったけの慈悲を垂れるのである。

 「いつかは あの空に」 は,実はこのアルバムの中で非常に重要な意味を持つ曲。どういう意味かと言うと…。

 1960年代後半から70年代にかけて,ロックの世界では「トータル・アルバム」あるいは「コンセプト・アルバム」と言う概念が流行した。1枚のアルバムを単なるヒット曲の寄せ集めとするのではなく,全体を通して一つのテーマ性を持った「芸術作品」に仕上げるというものである。その難解さが嫌われて最近では余りはやらないようだが,その代表作であるビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」は次のような構成を持つ。

 このアルバムはビートルズが架空のバンドである"サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド"に扮して,架空のコンサートを繰り広げるというものである。ここでは,次々に多彩なゲストがステージ上に登場してサイケデリックな万華鏡の世界が展開されるのだが,アルバム最後から2番目の曲「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド・リプライズ」で,主題がもう一度登場し,コンサートの終了が宣言される。しかし,その後拍手喝采の中から次の曲「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」が登場するのだ。すなわち,前曲で終了した仮想コンサートのアンコールとしてこの曲が演奏されるわけである。

 倉木はよく宇多田ヒカルに似ていると言われたことがある。しかし,「倉木麻衣論」でも述べたように,宇多田の曲を余り知らないと言うせいもあるが,私は余りそうは思わない。むしろ,「ビートルズの影響」というものを露骨に感じてしまうのである。ビートルズの現代音楽への影響力を考えれば当然のことなのだが,倉木のスタッフの中にビートルズに影響を受けている人物が数多くいるのではないか。そして,直接意図はしなくてもその方法論を採用しているのではないだろうか?私はそう感じてやまない。

 つまり,アルバム「Perfecr Crime」はこの「いつかは あの空に」でもって終わる。倉木はこのアルバムに関して「一本の映画を見るようなつもりで」といっているが,まさにこの曲はいかにも映画のエンディングテーマでありそうな曲。このアルバムは,ここで幕が閉じられるのだ。

 そして,アンコールの声がかかり,歌姫は再び女神の姿でステージに登場する。「The ROSE〜melody in the sky〜」 のメロディが聞こえてくる。だから,たった2分なのだ。5分であってはならないのだ。この曲は「Perfect Crime」に隷属する曲ではなく,それを越えて,次へと進んでゆく曲なのである。

 この曲はひたすらシンプルで,美しい。歌詞はすべて英語で歌われるが,それは悪く言えば高校生の英作文的な未熟さを持ちながら,聞くものにイノセントな喜びを与える神々しさを持つ。最初に聴いたとき,私はこれはバーブラ=ストライザンドのカバーかと思った。そのくらいの圧倒的な,天まで届く歌唱である。倉木の声は奇跡的に天国の高さまで跳ね上がり,そして感動を込めて大地を揺さぶる。日本人ポピュラーシンガーが聴く者にかつてこれほどの感動を与えてくれたことがあるだろうか。スタンダードナンバーになりそうな風格を持ちながら,決して誰一人として他人のカバーを許さない高みに達した曲ということができよう。

 ちなみにこのやり方は次回作の「FAIRY TALE」でも踏襲される。「不思議の国」で終了したおとぎ話の世界は,次の瞬間「fantasy」として,現実の姿を持って甦るのだ。

 「Perfect Crime」の結論。それは人それぞれではあるだろうが,私にとってはこう映る。すなわち,このアルバムはセールスを狙うために先行するシングルをぶち込んだ「ベスト・アルバム」の姿を採る。倉木の楽天的な明るさに,あるいはその優れた歌唱に,またはその容貌に惹かれたファンなら,十分納得してこのアルバムを購入するであろう。それで,第一目標は達成される。しかし,倉木とスタッフはそれでは満足できなかった。どうしてもこのアルバムに「隠しメニュー」を挿入したかったのだ。そしてそこには60年代的なやり方で「コンセプト・アルバム」の手法が採用された。しかし,大上段に振りかぶってはうっとうしがられる。ここでは,隠し味に使っておこう…といったところか。その意味で,実に謎めいたアルバムとなったが,倉木はこれで満足はしない。さらに一歩進めて,名作「FAIRY TALE」を作り上げることになるのである。