我々はまた歴史に残る珠玉のラブ・バラードを手に入れた。それどころか今まで「愛のすばらしさ」をこれほど高らかに歌い上げたアンセムがあったであろうか?
「歴史に刻まれた 切ない愛が 時を超えて 又 めぐり逢うよ…」
倉木はここで,「愛」というものをただ単なる二人だけの男女の愛にとどまらず,時間軸を超えた永遠のものとした。この時間軸を超えた愛は単にエロースであることを超え,アガペーにまで高まるが,それは決して洋楽のアーティストがよく使うような「神の愛」ではなく,「人間としての最高の愛」として描かれているところが倉木の作詞家としての卓越した能力を示す。
倉木はやがて再び「Time after time〜花舞う街で〜」において時間軸を超えた愛を歌う。私は倉木の宗教的心情について語るべきものを持たないが,「洋楽」を歌いながらも,彼女のメンタリティは決して西洋的な愛,神から人へ向けられた絶対的な愛を語らない。そこにあるのはきわめて日本的な,東洋的な思想なのである。彼女が同時代の「歌姫」たちに対して持つ最大のアドバンテージは,実は意外にも,この「オリエンタリズム」であるのかもしれない。
曲はあくまでも美しく,「この広い世界で…」の部分でお約束の第3メロディを持ち,聴く者を飽きさせない。また,言わずもがなのことだが,この曲においての倉木の歌唱はまさに神々しいものがあり,"The ROSE"と並ぶ絶唱となっている。
詞は倉木がメグ=ライアン主演の大ヒット映画「ユー・ガッタ・メール」を何度も何度も繰り返し見てインスピレーションを得たもの。
ただ,一つ残念なことがある。倉木は初めてこの曲の歌詞で英語の文法ミスを犯してしまった。
"The world is go round and round."
はやはり,
"The world is going round and round."
あるいは,
"The world goes round and round."とすべきであろう。
もちろんこんなことでこの曲の価値は少しも揺るぐことはないのだが…。
ただ,英語の専門家でもあるMai-K ML管理人のJ.P.氏からは次のような興味あるご意見をいただいた。
すなわち,
この文章は実は
"The world is."
と
"Go round and round."
の2文に分かれる。したがって,
「この世界が存在する」「廻れ廻れ」・・・
と読めば,文法ミスではなくなる。
と言うもの。倉木の周りにはネイティブの英語を話す人が数多く存在することを考えると,このような単純な文法ミスを犯すことは考えにくく,考慮に値しよう。
*2004.7.31 記
きわめて有力な情報が入った。
子どものころに渡米されて,ほとんどネイティブのように英語を使われている現在アメリカ在住の日本人の方からお知らせをいただいた。
その方のご意見によると,
"go round and round" は,実は動詞ではなく,名詞句(フレーズ)ではないのかということである。つまり,
"The world is go-round-and-round."
とでも綴る方が適当なひとつの「言葉(名詞)」であり,あえて訳すならば
「地球は“回るよ回る”なんだ。」
となる。
ご本人も確認は取れていないということだが,これはきわめて重要な情報であり,私自身も思わずひざを打ち,胸のつかえが取れたような気がしている。
また,アメリカでのMai-Kの人気について伺ったところ,
「CDは,www.yesasia.com や www.songjapan.com で比較的簡単に購入することができるし,インターネットで聞くこともできる。日本人のアーティストの中ではけっこう人気が高い。友人の女性(アメリカ人)はMai-Kの大変なファンであり,アルバムに入ってもいない"Just like you smile baby" さえ知っていた。」
ということだ。
我々は,Mai-Kの海外の人気について少し卑下した見方をし過ぎていたようだ。
余談ではあるが,私はこの曲を聴くと香港映画「テラコッタ・ウォリア/秦俑(1989)」を思い出してしまう。この映画の主題歌にしたいところだ。
2.については同名アルバムのタイトル曲でもあるので,アルバムのところで解説を加えることにするが,ここに収録されているのはアルバムとは違うバージョン。アルバムバージョンは鬼気迫る重苦しさがあるが,このシングルエディットは少し軽めに,テンポも心なしかゆっくり目に仕上げられていてシングル向き。