NHK朝の連続テレビ小説「オードリー」の主題歌であったというが,私は見たことがないので,その当時は曲も聞いたことがない。
曲はゆったりとたおやかに流れ,一種美空ひばりの「川の流れのように」を思い起こさせる風格を持つ。
「Reach for the sky ねぇ 始めなきゃ 届かないよ…」
からの第3メロディが印象的。
内容は抽象的であり情景は分かりにくいが,今まで本当の自分をつかみきれずに悩んでいた主人公が,
「何だ今のままの自分でいいのか」
とアイデンティティを獲得し,次の段階へ一歩歩みだすというもの。その象徴として「思いきりアハハと」笑うことを勧めるというもの。
倉木自身が「この曲はビートルズを意識したバックトラック」であると言っているが(Mai-K.net diary#08),ビートルズの"Let it be."を好きな言葉としてあげ,「なせばなる」という意味と捉えているという発言があるので,それを下敷きにしたものかもしれない。実際にこの曲は1966年ころのビートルズのムードを色濃くたたえているし,ビートルズが多用した主旋律の裏でカウンターパートとして別のメロディが歌われる("I've Got A Feeling"など)という手法をも取り入れている。
また,音響効果としても中期ビートルズ時代にジョン=レノンが好んで使用したレズリー(部で2つのホーン型スピーカーがモーターで回転することで、「ドップラー効果」呼ばれる,リスナーにビブラート感を与える効果を生み出す。)というエフェクターが使われていると。
倉木の好きな音楽というとまず第一にブラックなR&Bが挙げられるが,実際の彼女の音楽においてはあまり「黒っぽい」音はない。それよりはむしろいわゆる「洋楽ポップス」の系譜を色濃く感じてしまう。特にビートルズに関しては思い入れがあるようで,「Mai-K TV」第2回放送中では「好きな曲は"ミッシェル",Let It Be.の詞はすごい」という発言をしている。そしてこの"ミッシェル"こそ,1966年のビートルズの代表曲である。
京都造形芸術大学助教授の中路正恒先生は『倉木麻衣の "Reach for the sky"』(Ver. 31 May 2003)の中で
「この歌のテーマは、〈永遠の結婚〉であると言うことができるだろう。歌詞の中の" ring" は、間違いなく結婚指輪を意味している。」
といわれている。しかし,この曲の中に直接「結婚」を示唆する箇所はなく私にとって"golden ring"の謎は解けないが,ビートルズの曲が下敷きになっているのなら"Ob-La-Di, Ob-La-Da"の中で,主人公のデズモンドが恋人のモリーにプロポーズとして"golden ring"を贈るシーンがあるので,それを思い浮かべていたかもしれない。ちなみにこの曲の最後で,ポール=マッカートニーは高らかに「アハハ」と笑うのだ!
2.は倉木のバックバンドをつとめるexperienceのメンバーによる曲。ギターのジェフリー氏がラップ担当。曲の内容は主人公の性別不明。「僕がついているから信じた道を進もう」という,サイモンとガーファンクルの「明日に架ける橋」のモチーフに似ている。その他にも
"Bright are the stars that shine, dark in the sky"
は間違いなくビートルズの「アンド・アイ・ラブ・ハー」の歌詞,
"Bright are the stars that shine, dark is the sky"
から採られている。どちらも1960年代の曲であり,倉木のボキャブラリーの中にあったとは考えにくい。エクスペリエンスのメンバーによるサジェスチョンがあったのではないかとも考えられる。