CD No.:GZCA-1039   Release:2000年06月28日

曲目 作詞 作曲 編曲
1. Delicious Way 倉木 麻衣 大野 愛果 Cybersound
2. Love, Day After Tomorrow 倉木 麻衣 大野 愛果 Cybersound
3. Secret of my heart 倉木 麻衣 大野 愛果 Cybersound
4. Stepping ∞ out 倉木 麻衣 YOKO Black.Stone YOKO Black.Stone
5. Baby Tonight 〜You&Me〜 倉木 麻衣
Michael Africk
YOKO Black.Stone
Tomoo(笠原智緒)
YOKO Black.Stone
6. Can't get enough 〜gimme your love〜 倉木 麻衣
YOKO Black.Stone
YOKO Black.Stone Cybersound
7. NEVER GONNA GIVE YOU UP 倉木 麻衣
Michael Africk
Michael Africk
Miguel Sa Pessoa
Perry Geyer
Cybersound
8. Stay by my side 倉木 麻衣 大野 愛果 Cybersound
9. Everything's All Right 倉木 麻衣 北浦 正尚 Cybersound
10. happy days 倉木 麻衣 大野 愛果 Cybersound
11. 君との時間 倉木 麻衣 Tomoo(笠原智緒) Cybersound

オリコンデータ
最高順位1 位
登場回数36 回
初動枚数2,218,640 枚
累積枚数3,530,420 枚
リンクが張ってある曲は,シングルとして解説のページに飛ぶ。


 記念すべき倉木の1stアルバム。セールスが350万枚を越えたというウルトラアルバムともなった。シングル発売された曲に関しては,リンクを張ったページを参照していただきたい。

 一聴して感じるのは,宇多田ヒカルによって開拓され,当時一大ブームとなった「女性R&B歌姫」路線を強く意識した作品と言うこと。実は倉木と宇多田の間には,それほどの音楽的類似性は見出されないと思うのだが,それでもこのアルバムだけ聴けば,確かに宇多田との関連性は感じられるかもしれない。

 アルバム全体を通して感じられることは,やはり瑞々しい弾けるようなポップセンス。特にシングルA面扱いの曲はすべて分かりやすくキャッチーなメロディを持ち,ヒット性に満ちた作品。そのシングルを4曲も含む当アルバムは,まさに「第一次ベストアルバム」とも呼べる風格を呈している。

 オープニングの「Delicious Way」 はちょっとばかり特殊な立場にある曲。シングル化されてはいないものの,ファンの間で非常に根強い人気を保ち,ベストアルバム「Wish You The Best」にも収録され,ライブでは必ず歌われるなど,「準シングル曲」の扱いを受けている。

 歌詞の内容はこの後ずっと倉木の代名詞ともなる「自己肯定的人生応援歌」

 「いつものように自分らしく微笑めばいい」

と言う言葉こそ,これから常に倉木が追い求めるテーマとなる。

 タイトルの意味は分かりづらいが本人の弁によれば,

 人は皆それぞれ,千差万別の生き方があるが,その道は時にはつらくとも,気持ち次第で「delicious=happy」になる。いろいろあっても自分なりにがんばれば,きっと素敵な明日が来る…

ということらしい。

 この曲では,倉木の言葉はメロディを越えて次のパッセージへとあふれ出し,あたかも洋楽を聴いているかのような錯覚に陥る。圧巻はコーダでラップをバックに歌い続けられる「into the sweet sky, sweet sky yeah」。ライブでは永遠に続いて欲しいと願う天にまで届く歌声である。

 しかし,改めて歌詞の意味を考えるとき,我々はそこに込められた倉木のメッセージに心を打たれる。この二元的鑑賞法により「Delicious Way」は,聴くものに独特の感動を与え,シングル化されていなくとも倉木の初期の代表作の一つとなった。

 「Stepping ∞ out」 は独特の「黒っぽさ」を持ったR&B。17歳の倉木の声には多少無理があるが,そのアンバランスがかえってたまらない味を出している。

 「自分に魔法をかけて∞(無限大)の力を持つ」

という願い−17歳の少女のどこからその発想が出てくるのか,この頃から倉木が言葉に対して非凡な感覚を持っていたことがうかがい知れる。

 「Baby Tonight 〜You&Me〜」 では,Yoko Black.Stoneと並んで,倉木のライブには欠かせないキーボード奏者である笠原智緒の名が作曲者としてクレジットされている。詞の一部は,初期のコーラスにおいて倉木のよきサポーターであったMichael Africkの手によるもの。そのためか詞の中で英語の占める割合は他の曲に比べても多い。しかし,特に難解な表現はなく,平易な言葉で淡々と歌われるR&Bバラードである。アルバムの「箸休め」的な存在。

 「Can't get enough 〜gimme your love〜」 曲のタイトルを聴くと私のようなオールドファンはBad Companyの「Can't Get Enough」を思い出してしまったが,曲調は全く違う単調なR&B。歌っているというよりは抑揚の余りない「日本語ラップ」。アルバムの中では次の曲へのつなぎというべき立場。

 「happy days」 は,倉木の真実を垣間見ることができるという意味において,このアルバム中屈指の「名曲」ということができる。

 彼女自身も語っていることだが,倉木は歌手になるために転校し,かつての親友たちと離れ離れの生活を始めることになった。しかし,中でも最も倉木に大きな影響を与えていた友人の存在は倉木にとって何物にも替え難く,失うことは考えられない人であった。その親友との別れと思い出を,大野愛果の限りなく切ないメロディが紡ぎ上げる。ひょっとしたら倉木の全キャリアの中でももっとも感動を呼ぶ作品といっていいのかもしれない。ちなみにこの「親友」は,アルバムジャケットの最後において「Special Thanks to Ms. M.S(For happy days)」とクレジットされている。これを挿入した倉木の意思には脱帽するが,それを許可したレコード会社にも賛辞を送りたい。なお,このM.Sさんが倉木にとってどのくらい重要な人物であるかは,1stツアーの最終日,わざわざ,倉木自身がステージの上から「この親友が今日この場所に来てくれています」と聴衆に向かって語るほどである。

 「君との時間」 は倉木初の日本語タイトル曲。再び笠原智緒の曲。アルバムのエンディングにふさわしく,ゆったりとやさしくしっとりと歌われるこの曲でもって,この瑞々しいアルバムは大きな余韻を残しながら幕を閉じる。ファルセットを多用しながらヴォーカルは変幻自在に音符の間を渡り歩き,ここでの倉木は後に大きく開花するバラードシンガーとしての才能を十分に発揮している。

 アルバムのジャケットはまっすぐにこちらを見つめる倉木の顔のアップ。そこには「Love, Day After Tomorrow」のPVで見せた「可憐な美少女」の姿はなく,意志の強い瞳を持つ聡明な女性としての倉木が現れる。不思議とこの構図は第3作目の「FAIRY TALE」まで変わらない。

 ジャケット表紙は透明のプラスチックに白黒で印刷されており,顔が浮き上がって見えるような仕様となっている。費用もかかったろうが,このアルバムの驚異的なセールスを考えれば,十二分にペイしたはずだ。