CD No.:GZCA-5031 Release:2003年07月09日
曲目 | 作詞 | 作曲 | 編曲 | |
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1. | If I Believe | 倉木 麻衣 | 大野 愛果 | Cybersound |
2. | Time after time 〜花舞う街で〜 -theater version- |
倉木 麻衣 | 大野 愛果 | Cybersound 池田 大介 |
3. | 風のららら | 倉木 麻衣 | 春畑 道哉 | Cybersound |
4. | Kiss | 倉木 麻衣 | YOKO Black.Stone | Cybersound |
5. | mi corazon | 倉木 麻衣 | Miguel Sa Pessoa Michael Africk Perry Geyer |
Miguel Sa Pessoa |
6. | I don't wanna lose you | 倉木 麻衣 | 徳永 暁人 | 徳永 暁人 |
7. | Make my day -album version- |
倉木 麻衣 | 徳永 暁人 | Cybersound |
8. | SAME | 倉木 麻衣 | Perry Geyer Miguel Sa Pessoa Michael Africk Johnny Risk |
Perry Geyer Miguel Sa Pessoa Michael Africk Johnny Risk |
9. | Just A Little Bit | 倉木 麻衣 Michael Africk |
Perry Geyer Miguel Sa Pessoa Michael Africk Johnny Risk |
Perry Geyer Miguel Sa Pessoa Michael Africk Johnny Risk |
10. | You are not the only one | 倉木 麻衣 | 徳永 暁人 | Cybersound |
11. | Tonight, I feel close to you | 倉木 麻衣 西室斗紀子 |
大野 愛果 | Cybersound |
オリコンデータ | |||
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最高順位 | 1 位 | ||
登場回数 | 20 回 | ||
初動枚数 | 251,218 枚 | ||
累積枚数 | 443,689 枚 |
これを書いている2004年2月現在最新のオリジナルアルバムが本作である。
倉木は前作「FAIRY TALE」で「過去を見つめて新しい未来を探す」旅に出た。この大事業を見事にやってのけた倉木が次に向かう先はどこか…。それは,意外なことに「自分自身」であった。大規模な「FAIRY TALEツアー」を成功させ,その中から倉木は多くのことを学んだようだ。ここで彼女はがむしゃらに前進することをやめ,いったん立ち止まり「クールダウン」しながら自分自身の足元を見つめることにする。
一見このアルバムには統一したテーマが無いように見える。それは6曲と,収録曲の半数以上をシングル発表された曲が占め,残りの曲も「If I Believe」を代表に,そのままシングルとなりそうな曲が多いために「ベストアルバム」的な外見を持つからだろう。しかし,一曲一曲をつぶさに見ていくと,その「ヒット曲」の裏に大いなる挑戦が見て取れるのだ。そこにあるテーマは「発見」。自分自身の再確認である。
このアルバムに関しては「music freak magazine」2003年7月号に倉木自身の詳細なインタビューがあるので,その成り立ちについて本人の言葉で多くのことを知ることができる。以下(mfm)と記すところはこのインタビューによる。
「IF I Believe」 はシーブリーズのCM曲でもあり,いきなり前奏なしで始まる倉木の声は聴く者をはっとさせ,朝の海風(SEA BREEZE)のごとく心地よい覚醒を与える。こういう歌い方をされると,この人は何という美しい声を持っているのだろうかと改めて感動を覚える。
「信じる気持ちっていうのは、まずは自分を信じる事から始まって、それから周りにいる人達の気持ちを信じて行かないと、次の行動に起こせないよっていう意味。デビュー時からこの曲のデモ・テープは存在しており、以前に何度か仮歌を歌っている。そのため歌詞のヴァージョン違いが多数存在している。」(mfm)
歌詞は倉木のインタビューにあるように
「いったん立ち止まって,自分の場所を再確認・再発見しよう」ということの宣言となる。内容は主人公の男性?が関係がギクシャクし始めた恋人に対して,もう一度自分たちの関係を再確認してお互いを信じて再出発しようというもの。さわやかにアルバムの基本コンセプトが歌い上げられる。
「Time after time〜花舞う街で〜 (theater version)」 は映画「名探偵コナン 迷宮の十字路」の劇場用に作られたヴァージョン。ライヴでもこのイントロで演奏されている。(mfm)
シングル解説でも述べたように,倉木はそれまでの「洋楽」であった自らの音楽的スタンスを再確認し,自らの中の「和」の世界を「発見」した。実際同時期の「平成の歌姫」たちが基本線において「洋楽」のイメージが強いのに対し,倉木はいち早く「和」の世界にもその守備範囲を広げた。もともと彼女の中には他のアーティストに見られないようなオリエンタリズムがあっただけに,倉木が「Time after time」や英語詞の無い「風のららら」を歌うとき,長い間探していたジグソーパズルの一片を見出したときのような充足感を感じるのは私だけであろうか。
「Kiss」 ではしかし,Yoko B.Stoneの曲に乗せ倉木の音楽的ルーツでもある「洋楽=R&B」が「再発見」される。
「mi corazon」 とは「私の心」という意味のスペイン語。倉木は大学で第2外国語としてスペイン語を選択しているというが,この曲では大学生としての自分を「再発見」したのかもしれない。私はロマンス系言語としてはフランス語とラテン語は学んだことがあるがスペイン語は門外漢。乏しい知識を総動員して訳してみると
"Si no estoy contigo para que?"("If I'm not with you, what would you do?")「なぜ私のそばにあなたはいないの?」(倉木自身の訳(mfm))"
"Pero es que te quiero tanto."("But I love you a lot." )「でも私はあなたをとても愛している」
"No me des falsas esperanzas."("Don't give me the false hope.")「私に偽りの期待を持たせるな(もう嘘はつかないで!)」
という意味か。 スペイン語ができるなんてすごい!と思うが,倉木が敬愛するクリスティーナ=アギレラに「Falsas Esperanzas」という曲があるし,"te quiero tanto"(I love you)はありふれた表現なので,それほど驚かなくてもいいのかもしれない。ともあれラテンの曲ではあるが,あまり「洋楽」臭さを感じず,むしろ「コモエスタ赤坂」のように演歌の香りさえ漂う。
この曲は仮題として「Slow Down」と呼ばれていたというが,ビートルズに同名の曲がある。
「Make My Day」 は前年のリリースとなる曲なので,このアルバムのテーマ「自分発見」以前のマージナル=マンとしての姿が描かれる。
「SAME」 は非常に注目すべき曲。この曲のプロモーションビデオでは,倉木自身がテレビの中にいる自分を見つめるというシーンがあるが,まさに「自分再発見」の曲である。シングル「natural」のところで述べたように,「natural」とこの「SAME」は過去の自分に決別を告げ,新しい自分の誕生を告げる倉木の「プライム・スクリーム」である。
高校入学直後から歌手になることを夢見て常に前向きに邁進してきた倉木。その意味でこれまでの彼女の曲は常に「現状肯定的人生応援歌」であった。倉木は繰り返し悩める若者たちに「そのままでいいんだよ。前を向いて歩いていこう!」と歌い続けてきた。そして倉木はスーパースターとなり,「夢」を実現させた。しかし,そこに至るまでに彼女が失ったものも大きかった。たとえば親友との別れは「happy days」で歌われ,「natural」では「虚像としてのMai-K」しか見ようとしない世間に失望もした。さまざまなスキャンダルに襲われ,いわれのない非難中傷を受ける。ショウビジネスの中心で生きる倉木の4年はゆうに我々一般人の20年には相当するのではないか。そのうち続く苦悩の中でしかし倉木はついに「悟り」をひらいた。「私は私,ほかの誰でもない」と。
そしてだからこそ彼女は歌う。
「私は歌手。私のことは私の歌で理解して。私は飾り物のお人形さんじゃないの。自分で考え,自分らしくありたい人間なの。今あなた(私の歌を聴いてくれる皆さん)と"同じ"時間を共有していたい。それが"私らしさ"ということだから。」
と。
「natural」と「SAME」で,苦悩の中から悟りを開いた倉木はついに「Just A Little Bit」で昇天する。それはあたかもイエスの復活にもたとえられようか。同時代の若者の先頭に立ち,常に最高のアジテーターであった彼女は,その若者たちとともに悩み,揺れ動き,そして成長してきた。しかし倉木はここに至り自らの足元を見据え,完全にアイデンティティを確立した。そして繭を脱ぎ捨て,新しい姿で降臨した。それはあたかも彼女が「マイケーヘア」を捨てたのと時を同じくする。この時期,音楽だけではなく,プライベートにも彼女の中で何か大きな変化があったのではないかと想像してしまうが,ファンにとっては悩ましいことかもしれない。
ひとつ気になることがある。この曲は倉木とマイケル=アフリックの共同作詞となっている。彼はこのアルバム全編を通して実に重要な協力者となってはいるのだが,この曲の英語詞はきわめて簡単。なぜ敢えて彼が共同作者とされるのか?彼が仮詞を英語で書き,倉木がそれを元に日本語詞を書いたか?おそらく,そういう形での「共同作業」となり,完成作品としてのこの曲においては歌詞カードには記されていない「コーラス」で歌われる部分の歌詞をすべて彼が書いたということになったということだろう。それならかなりの分量になるので納得がいくが,アフリック氏への礼儀として歌詞カードにも記載してほしい。
ともあれ,「Just A Little Bit」 の倉木はもはや「Stay by my side」の頼りない美少女ではない。これからいったいどこまで飛んでゆくのか?我々は不安を感じながらもその先を見つめていたい。私は「The ROSE」にバーブラ=ストライザンドの影を見たと書いた。あの頃から圧倒的な歌唱力を発揮し「歌姫」としての存在感を示していた倉木ではあったが,私はこの曲にはジャニス=ジョップリンの香りを感じた。ただ「歌のうまい歌手」から何か鬼気迫る存在感を持った「存在」へと変わりつつあるように感じるのだ。
「You are not the only one」 は一転して「歌謡曲テイスト」を持った曲。バラエティに富んだ曲作りにはセンスが感じられる。
最後の曲「Tonight, I feel close to you」 にはさらに注目したい。
この曲は台湾の歌姫,孫燕姿(ヤンツィ)とのデュエットになっている。先方からオファーがあったということだが,次々に日本のアーティストがアジアに進出している昨今,倉木のアジアツアーの可能性も感じられて興味深い。
曲は全編英語で歌われる。倉木自身が
「あえて英語にしたのは、日本語だとストレートに見えたり伝わったりするけど、英語だと恋愛でも友情でも幅広く取れると思うし、メロディを聴いて色々とイメージが膨らんで壮大な感じになるかと思って。」(mfm)
と語っているように,あえて「洋楽」として聴けということのようだ。共同作詞者に彼女の音楽ディレクターである西室斗紀子氏が挙げられているので,倉木の日本語詞を西室が英訳したのかとも考えたが,詞のフィーリングはいつもの倉木節。随所にアドバイスを受けたというところであろうか。韻を踏んでいないところから見てもいわゆる「プロ」の作詞家の影は感じられない。使われている表現も,先行する洋楽の名曲の中に散見されるものが多く,いつもの倉木の英語作詞法の轍を踏んでいる。全体を通して感じられるのは,友情のすばらしさを歌ったサイモンとガーファンクルの名曲「明日に架ける橋」(Bridge Over Troubled Water)の影響であるが(When I need a friend, you are there right by my side.=And if you need a friend, I'm sailing right behind.等),そのほかにもカーペンターズの「遥かなる影」(Close To You),ビートルズの「ヘルプ!」(open (my) door),ジョン=レノンの「イマジン」(I wish we could stay as one.=And the world will live as one.)などの影響が見える。詞を訳出することは倉木の意思から考えて本意ではないが,中学生のファン等でお困りの人もいると思うので,大意を訳出しておく。ここでは「友情」を前面に出してyouを「君」と訳しておくが,「あなた」と訳せば恋愛の内容にとることができるだろう。ともあれ,このコラボレーションは倉木のキャリアの幅を大きく広げることになった。この曲がシングルカットされてもいないのに,「Wish You The Best」に収録されていることを考えても,この曲に対する倉木自身の思い入れの深さと,アジアマーケット重視の姿勢が見て取れよう。
目を閉じて君の気持ちを想う
時は過ぎ 僕は影のように彷徨う
どこをどう歩いているのかさえ分からない
君が僕の心に触れれば 息もできなくなる
風に乗せてそっとささやいてみる
きらめく星を愛に満ちた夢で一杯にしよう
連れて行って欲しい 君にならついて行ける
どこへ行けばいいのか教えてくれる
今夜は 君を身近に感じる
君は僕の心の扉を開けて 空を明るく照らしてくれる
誰かが必要なとき 君はすぐそばにいてくれる
このまま一緒にいられればいいのに
このままずっと一緒にいられればいいのに
昔はいっぱい泣いたね
でも 君はきっと素敵な明日が来るって約束してくれた
あの歌を演奏(やって)よ
一緒に聴いて この苦しみを吹き飛ばしたいから
青い空から雨がやさしく降り注ぎ
花が咲く 人生は神々しく輝くよ
一条の陽光のように 君が僕に本当の世界を教えてくれる 君にならついて行けるね
こんなすばらしい世界で こんなにもも愛されて
夜空で一番明るい星を探してみよう
君は僕に愛って何なのかを教えてくれたね
怖がらなくていいんだ そのままでいいんだよって
僕にはこの愛が必要 今まで分からなかったけど
今夜は 君を身近に感じる
君は僕の心の扉を開けて 空を明るく照らしてくれる
誰かが必要なとき 君はすぐそばにいてくれる
このまま一緒にいられればいいのに
このままずっと一緒にいられればいいのに
ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」に対する「ホワイト・アルバム」のような位置にあるのだろうか。「FAIRY TALE」で「アーティスト」となった倉木はこのアルバムで我々に「本音」をぶつけてきた。ジャケットも今までの「がむしゃらさ」が消え,余裕が見られるデザインとなった。我々もその耳ざわりのいい音楽に酔いしれるだけではなく,彼女の意図をしっかりと理解しながら,今後一層の発展を見守っていきたいものだ。