「Mai-K研究」参考資料1

 「ロックの歴史」(〜1990's)No.2


第2章−大衆(ポピュラー)音楽の成立

1.ジャズの時代〜アメリカ黒人音楽の発展

 19世紀後半,合衆国の黒人たちは,奴隷身分から解放はされたが,その後も,人種差別や黒人排斥の社会機構の中で,最底辺での生活を強いられていた。そういった中,彼らは,アフリカ伝来の強烈な精神性を持つ教会音楽ゴスペル(gospel)や,即興的なメロディのブルース(blues)を発展させていった。強い人種性・民族性を残すこれらの音楽は,やがて白人音楽の影響を受けて洗練・発展し,1900年頃に,アメリカ南部のニューオリンズで器楽演奏を主体としたジャズ(jazz)として発達し,第一次世界大戦後の1920年代には,ポピュラー音楽の主流となった。当初2拍子(2ビート)であったジャズは,1930年代には“揺れる”(スウィング)ような躍動的な4ビートへと転化し,ダンス音楽として中心的な役割を果すようになり,1930年代に一般化してきたラジオ放送にのって,全国に広まっていった。この頃になると白人音楽家も台頭し,ビッグ=バンドによる演奏が行なわれるようになってきたことも注目される。

2.アメリカ大衆音楽の発展

 20世紀初頭に登場した,アメリカの大作曲家ジョージ=ガーシュウィンは,ジャズとクラッシックを融合させることにより,ジャズの芸術化を図り,“ミュージカル音楽“の確立者として知られる。そして,こういった音楽を管理した音楽出版社が数多く存在したのが,ニュー=ヨークの,いわゆる“ティン=パン=アレイ”(Tin Pan Alley,直訳するなら「どんがらがった通り」)である。やがて,音楽が映画と結びつき,ハリウッド映画が全盛時代を迎えると,このティン=パン=アレイが,世界の大衆音楽を支配する時代が到来するのである。このような中で,1930年代,一世を風靡する,世界初の“ポピュラー=シンガー”が登場した。

 ビング=クロスビーは,『ホワイト・クリスマス』の大ヒットで知られるが,初期のミュージカル映画のスター歌手として,世界的な人気を獲得した。クロスビーが,最初のポピュラー=シンガーと呼ばれる理由は,彼のささやくような独特の歌声にもあった。それまでの歌手は,1000人規模のホールで,“生で”(ライブ)演奏することが前提とされ,そのため喉を大きく開いて,よく通る声で歌う,いわゆるクラッシック唱法をとっていた。しかし,マイクロフォンとアンプ・スピーカーなどのPAシステムが,「歌」そのものをも変えてしまった。彼の歌唱法は,音楽に新しい局面をひらくこととなった。

 1940年代になると,フランク=シナトラが,新たなスーパースターとして登場した。シナトラのパフォーマンスには,若い女性が殺到し,もはやそれまでのように,まず楽曲があって,それを誰がどのように歌うかを楽しむという,クラッシックやジャズ=スタンダード的な音楽鑑賞法は影をひそめ,どんな曲でもいいから,“あの歌手”が歌うのを聞きたいという,「何を歌うかではなく,誰が歌うか」という,現代ポピュラー音楽の基本的な鑑賞法が確立されたのである。

3.黒人音楽の新展開

 ゴスペル,ブルース,ジャズ等の黒人音楽は,当初はあくまでも黒人だけのものであり(“人種音楽”と言う意味で,レイス=ミュージック(race music)と呼ばれた,南部中心の,非常に“泥臭い”存在であった。しかし,それらの黒人音楽は,1940年代までには北部にも広がり,白人の音楽家も増えてファンも増加していった。そして,このジャズやブルースに電気楽器が加わり,ビートの効いた都市の音楽へと転化してゆくと,この音楽はリズム=アンド=ブルース(R&B)と呼ばれるようになった。また,ボーカルとコーラスを重視したドゥ=ワップ(doo-wap)も登場し,さらに大衆性を強めていった。

4.ロック=アンドロールの誕生

 一方,西部などを中心に,白人開拓者たちが民謡から発展させたカントリー=ミュージックは,やがて,1920〜30年代にはアメリカ全土で愛好されるようになり,ハンク=ウィリアムスなどの大スターを生んでいた。1950年代中期,この白人のカントリー音楽とリズムアンドブルースが相互に影響しあって,強力なリズムを持つダンス音楽,ロック=アンド=ロール("rock"も"roll"もともに“揺する”という意味,ロックンロール"rock'n roll"ともいう)が誕生したのである。

 世界初のロック=アンド=ロールのヒット曲と呼ばれるのが,1955年に,ビル=ヘイリーと彼のバンド“コメッツ”が演じた,校内暴力をテーマとした映画『暴力教室』の主題歌,『ロック・アラウンド・ザ・クロック』である。この曲は若者を中心に爆発的にヒットし,一躍ロック=アンド=ロールの名を世界に広めることになったが,ビル=ヘイリーは中年の白人男性であり,ロック=アンド=ロールが真に若者文化のシンボルとなるためには,もう一人の人物の登場を待たなければならなかった。