2003年12月31日,倉木は初めてNHKの紅白歌合戦に出場した。と言うよりは初めてテレビに生出演し歌を歌った。まさに記念すべき出来事であった。ところが,これがすこぶる評判が悪い。2チャンネルは何とでも言わせておけばよいが,古くからの熱心なファンの中にも倉木の紅白出場は失敗であったと言う人も多い。
では,紅白の倉木は本当にそんなにひどかったのか?
実は私に関して言えばまったくひどいとは思わなかった。私は,大晦日・地上波再放送・BS2再放送・BS-hi再放送と紅白歌合戦をテレビで4回鑑賞し,それからもう数回録画を見たが,特別に「すごく歌がうまい!」「すばらしいパフォーマンスだ!」とまでは感じないまでも,「ふつー」に歌ってるなぁという印象は持った。まぁ,小林幸子に比べれば地味ではあったが・・・。
「最高!これでもう倉木のファンになろう!」とまでは感じなかったが,他の多くの歌手たちと取り立てて違ったところは感じなかったし,むしろその爽やかな笑顔には好感が持てた。控えめに言っても「80点」の出来であったのではないかと思うのだが・・・。
そこで考えた。それならばなぜあんなに評判が悪いのだろうかと。
その問題を考えるに当たって2つの点を指摘しておきたい。
私は昨年の紅白放映時にはまだ倉木さんのファンではなかった。
実は,ご存知のとおり,私は2004年1月5日頃に「Wish You The Best」を買って以来突如倉木のファンになったものであり,それまでは「倉木麻衣」という存在を知ってはいたもののリアルなものとして捉えたことはなかった。ということで,あの夜が倉木の顔をまともに見るのもはじめて,歌を聴くのも初めてであり,当然「Stay by my side」という曲があることを知ったのもあの夜のことであった。その私があの日の倉木の出演を「ふつうの出来」だったと思う・・・これが「論拠1」である。つまり,「あの倉木麻衣が初めてテレビに出る」ということで興味を持ってテレビの前には座ったが,特に予備知識も先入観もない私が「ふつう」であると思うということである。
全体的な傾向として年配のファンは否定的で,若年層は肯定的である。
この件に関して倉木ファンサイト「The Sky Style」を主催される中学生「puro」氏は次のようなコメントをお寄せくださった。(原文は口語体のため内容を変えない程度に書き換えさせていただいた。)
さまざまなファンサイトを巡ってみたが「紅白出場!生麻衣が見られる!」という若年層ファンが圧倒多数であった。 しかし少数だが,「紅白かぁ。TV出演はしてほしくなかった。」という意見もあった。 |
また,当日の倉木の歌唱に関しては
あのときの麻衣さんは多少スタッカート気味に歌っていた。 |
という非常に深遠な見解を持たれている。歳若いファンも大変よく考え,倉木を見つめている。
またもう少し年齢層の高いファンの中には,「歌姫バカ一代」のバツ丸氏のように,紅白における問題点の中心を屋外中継の音響問題により倉木らしさを出すことが出来なかったという点に置く意見もある。また同氏は,紅白における倉木の歌唱に批判的なのはコアなファンではなく,倉木を初めて見る一般層に多いともご指摘くださった。ファンは倉木のことを分かっていると。
この二つの論点を総合して考えると,私には次のような「紅白像」が見えてくる。
すなわち,
昔から倉木のことをよく知っていた年配のファンやコアなファンの方は「紅白」というものに非常に大きな思い入れがあり,(紅白に出場することが歌手の勲章という,現在でも演歌歌手にはよく見られるような感覚)始まる前からかなり過大な期待を持って待ち構えていた。ファン歴が長ければ長いほど,今までの「歴史」が頭の中をよぎったことであろう。
ところで,紅白当時の倉木は何だかいつもと少し違った。髪はすでに1年位前から「マイケーヘア」と呼ばれた変形ポニーテイルををやめていたが,顔の感じも,カメラの具合か何だかいつもよりずいぶん丸顔に見えた。衣装も見慣れたノースリーブではなく(寒いから当たり前だが)セーターにコート姿であった。要するに彼女のことをよく知っているファンならそれだけ「あれ?」という感じを抱いたのではないか。
つまり,長年のファンにとっては,紅白歌合戦で見慣れたものとは顔かたちもヘアスタイルも服装も違う倉木が出てきて,「ふつう」に歌ったものだから,「あれ?なんか変だな?」・・・「今ひとつだな」という印象を持ったのではないか。倉木は倉木であったのに。
そこには昔から愛し続けている倉木に対する「父親的」な愛情があり,発表会を迎えた愛娘に対し「ほら,お前ならもっと出来るはずだ。がんばれ」と,叱咤激励する気持ちが見られる。そのため,その年をときめくSMAPなどに比べれば今ひとつ地味であった倉木に対しては愛情ゆえの不満を感じた。
ただ,以前の倉木のことをよく知らない,あるいは「紅白歌合戦」というものにそれほどの感慨を持たない中高生の皆さんは,ミュージック・ステーションをたまたま大晦日に放映しているような感覚で,素直に「生倉木」が見えたことを喜んだ。
さらに最も批判的であったグループはバツ丸氏のご指摘によれば「倉木を初めて見る一般層」であったということであるが,私はこの人たちが批判的なのはマスコミによる「倉木非難刷り込み」が原因のような気がしてならない。
「倉木中継!初出場のくせに特別扱い!NHK何考えてる?!」
というマスコミの論調はよく見られたが,それを漠然と自分の意見と同一視して発言されているだけではないだろうか?
似たような例であるが,先日ある50歳くらいの女性を私の車に乗せていたときのこと。カーオーディオで倉木の曲をかけていて,これは倉木の曲だと教えると,
「あぁ倉木麻衣?宇多田とそっくりね。この曲もそっくり!」
と声を大にして言う。とてもそんなふうには思えないので,詳しく聞いてみると,彼女は実は宇多田ヒカルの曲なんてほとんど聞いたことがないし,もちろん倉木の曲も一曲も知らなかった。ただマスコミ等でそう言われるから自分もそう思っているだけであったのだ。
この「刷り込み現象」は残念なことであるが,他のアーティストに比べ倉木に対して非常に強く感じられる出来事である。
以上のことから考えて,紅白当日の倉木の出来は一般に言われているほど悪くはなく,控えめに見ても「ふつう」であったということが分かる。ただ,あれだけ歌いなれている曲でありながら歌詞を間違えたりしたように,屋外中継という寒さや音響コンデションのせいもあり極度の緊張状態にあり,100%の実力を発揮したとは言いがたいのかもしれない。歌い終わった後に見せた倉木の最高の笑顔は,心から「あー,終わった!」という安堵の表情であったのだろう。
「ふつう」程度なら何のために紅白へ出たかということであるが,ここにはGIZA側の販売戦略が大きくかかわっている。なんと言っても紅白の翌日,2004年元旦には倉木初のベストアルバム「Wish You The Best」の発売が予定されており,その前日の大舞台は最高の販促材料となるはずである。(どうも当日着ていたセーターは,その「Wish You The Best」のアルバムジャケット写真で着ているものと同じものに見える。)この点を「逆に失敗して幻滅されたら・・・」と老婆心から危惧する意見も多かったが,ベストアルバムは自身5作連続のNo.1ヒットとなり,あっという間にミリオンを達成したということと,私のように紅白と,1月2日にNHKで再放映された「平安神宮ライブ」を見て,その後ベストアルバムを買って,その結果こんなになってしまった(^_^;)人間がいることを考えても,紅白出場は成功であったといっていいのではないだろうか。(ちなみに,多くの方が私のサイト宛にメッセージをお寄せくださっているが,「紅白」をきっかけに新しくファンになったという人はかなりの数に上る。)
さらに付け加えるならば,「平安神宮ライブ」「紅白歌合戦」そして,「よるドラ」の主題歌(「明日へ架ける橋」)と続くNHKとの太いつながりは,2004年の倉木の活躍にとって大きな意味を持つことは間違いない。
ということで,2003年紅白歌合戦初出場の倉木は,さまざまな要因から決して100%の出来とはいえなかったが,「まずまず」のパフォーマンスであり,販売戦略上は大いに意味があった。と言っていいのではないかと思う。また,NHKとのつながりの強化により,2004年の紅白歌合戦への出場も有力になった。ファンならずとも年末が楽しみである。