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*補論05 大野か徳永か?

 2004年3月,倉木の新曲がアナウンスされた。

倉木麻衣:作詞,徳永暁人:作曲 「明日へ架ける橋」

だ。

 しかし,各掲示板を見るとこれがかなりの議論を巻き起こしている。いわく「徳永の曲ではだめだ!」「徳永が倉木をだめにした」「倉木の歌は大野愛果でなければならない」・・・等々非難轟々である。

 確かに,現在の倉木を作ったのは大野の楽曲群であったといって間違いはないであろう。「Love, Day After Tomorrow」「Stay by my side」「Secret of my heart」という,現在でも誰もが倉木の代表作としてあげる曲,スーパーヒット曲として後世にまで伝わることが間違いないこれらの曲を作曲したのは大野愛果である。その甘くとろけるような珠玉のメロディは聞く者を虜にし,麻薬のように日本中に倉木中毒患者を蔓延させていった。また,最近大野のセルフカバーソロアルバム「Shadows of Dreams」を聞いて驚いたのだが,大野の声は驚くほど倉木の声に似ている。その大野自身の特質が,倉木に特別に優れた楽曲を提供してきたことは想像に難くない。ところが,徳永が倉木に曲を提供するようになってから,倉木のCDセールスが落ち込んできた。「徳永が倉木をだめにした」という意見は,そのような状況を踏まえて上の表現なのであろう。しかし,本当にそうなのだろうか。


大野作の「Can't forget your love」と徳永作の「Perfect Crime-Single Edit-」は両A面のため双方で同時にカウントしている。

 上のグラフを見てもらいたい。すぐにわかることは,大野の楽曲の売り上げが1シングル平均516,845枚,徳永のそれが,294,015枚と,ダブルスコアに迫る勢いで大野が提供した楽曲の売り上げが上回っているということだ。ということは,やはり倉木の歌は大野の曲でなければならないのか?

 しかし,少し見方を変えてみたい。補論4でも述べたが一世を風靡したようなアーティストには必ず「風が吹く」時がある。倉木の場合はデビュー直後の2000年の状況がそれに当たる。まさに倉木自身が「吹きあれる波に のみこまれない様に」と歌うような追い風が吹いていた。その意味で,いわゆる「初期三部作」は倉木のキャリアの中でかなり特別な立場にある曲であり,倉木のアーティストとしての実力をきちんと見極める時期は2001年以降ということができるのではないかと書いた。

 そこで,2001年以降の状況を見てみよう。

  
大野愛果売り上げ 徳永暁人売り上げ
Simply Wonderful384,820 Stand Up475,910
Reach for the sky468,320 PERFECT CRIME180,040 
冷たい海
 Start in my life
356,310 Winter Bells258,310 
always219,940Feel fine !451,500 
Can't forget your love180,040Make my day104,313 
Like a star in the night104,313  
Time after time
 ~花舞う街で~
178,400   
平均270,306 294,015 
「Can't forget your love/PERFECT CRIME」は両A面扱いで双方同数で記入

 この一覧から分かるように,実は倉木の人気が落ち着きを見せ始めた2001年以降は,大野と徳永の提供する楽曲の売り上げ枚数はほぼ拮抗しているのである。

 また,倉木のヒット曲上位5傑を挙げれば,

順位 曲名 売り上げ 作曲者
1Love,Day After Tommorow1,385,190 大野
2Stay by my side 922,140 大野
3Secret of my heart 968,980 大野
4Stand Up 475,910 徳永
5Reach for the sky 468,320 大野

 大野 平均  徳永 平均
 936,158  475,910

 と,5曲中4曲を大野の曲が占め,売り上げ平均もダブルスコアで大野に軍配が上がる。しかし,これも先ほどと同じ基準で「初期三部作」をはずして考えるとどうなるか。

順位 曲名 売り上げ 作曲者
1Stand Up475,910徳永
2Reach for the sky468,320大野
3Feel fine !451,500徳永
4Simply Wonderful384,820大野
5冷たい海/Start in my life356,310大野

実際は"NEVER GONNA GIVE YOU UP"が第4位に入るが,大野・徳永両者以外の作曲者のため除外している。

大野 平均 徳永 平均
403,150 463,705

 この状況では,実は徳永の売り上げのほうが大野のそれを上回るのである。すなわち徳永は倉木をダメにしたどころか,そのキャリアに非常に大きな貢献をしているということが分かる。

 しかし,これはもちろん「売り上げ」だけの問題であるので,その他の要素についても検討してみよう。

 倉木がそのキャリアの初期において大ヒット曲を連発したのには,当然のことながら作曲家大野愛果の力が大きい。しかし,同じ路線を続けていけばどうしてもやがて飽きられる。40年同じことをやっていても飽きられないローリング・ストーンズのような例もないことはないが,商業音楽はどうしても顧客に対するサービスを念頭において制作されなければならないので,定期的なアーティストのイメージチェンジは避けて通ることができない。音楽史をひも解いてみても,ビートルズや山口百恵はそれに成功し,ベイ・シティ・ローラーズやピンクレディは失敗しシーンから消えていった。

 倉木の場合も,実際には4曲目のシングルに決まりかけていた大野作曲の「This is your life」が,イメージの固定化を恐れて急遽サイバーサウンド作曲の「NEVER GONNA GIVE YOU UP」に差し替わったという経緯がある。徳永はそのアーティストの命運をも左右する重要な局面「イメージチェンジ」の大役を担わされた。その結果は…,「Stand Up」は「初期三部作」に続く大ヒットとなり,徳永はその重責をよく果たしたのだ。その後も,「Winter Bells」で久々のチャートNo.1を獲得するなど,実際には現在の「歌手倉木」は,作曲家徳永の存在なしには考えられなくなっている。

 大野と徳永。この両者の曲はそのイメージが大きく違う。性が違うということがもちろんその根底にもあるだろうが,大野の曲が(おそらく大野自身の音域と倉木の音域が重なることもあって)音域が広く,アップダウンが頻繁でしばしばファルセット領域へ到達し,ワンフレーズの中に音符の数がかなり多いのに対し,徳永の曲はメロディよりもリズムを重視するところがあり,余り広い音域を使用せず(その結果ファルセットは余り使われない)シンプルなつくりとなる。もちろん「どちらがいいか」というのはまったく個人の趣味の問題で,私がここでコメントする立場にはないのだが,少なくとも両者とも,セールスの面では同等に倉木のキャリアに貢献していると言っていいだろう。しかし,大野を推す声が多いのもまた事実であり,おそらくそういった人たちは,倉木が大野の曲を歌唱したときの,まるでベネチアングラスの細工物のような繊細可憐なファンタジーワールドにこそ倉木の魅力を見出しているのだろう。しかし,一方,徳永の曲を歌うときの倉木は,たとえるなら宋の白磁のような艶を持って我々を純粋な音楽の快楽へと導く。アルバム「FAIRY TALE」の冒頭からの3曲「Fairy tale~my last teenage wish~」「Feel fine !」「Ride on time」はすべて徳永のペンになるが,その迫力とリアリズムにおいて倉木の全キャリアを通しての最高の瞬間のひとつとなっている。まさに「中期三部作」とも呼んでよい。

 だから,倉木=大野ファンの方々には声を大にして言いたい。どうぞご心配なく。「明日へ架ける橋」はきっとすばらしい曲になる。どうか一緒にそのメロディが聞こえてくるときを待とうではないか。徳永がダメなどということは決してない。しかし,それでも大野の曲が聞きたい皆さん。それも心配ない。「中期三部作」のあとから「key to my heart」の歌声が聞こえてくるように,やがて大野もすばらしい曲を提供してくれるであろう。さらにはYOKO Black.Stoneや春畑道哉の他にも強力な作曲家が登場するかもしれない。今しばらくの我慢だ。

 もうすぐ春が来る。

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