「倉木麻衣のどこが好きなの?」と聞かれてあなたはどう答えるか。これは難問である。(と私は思う。)
宇多田ヒカルなら「曲がいい」とか言えそうだし,氷川きよしなら「かわいいから」とか言える。もしモーニング娘。なら…,あれだけいればきっと一人くらいはお気に入りがいるだろう。
しかし,倉木の魅力を一言で言うのは非常に難しい。声がいい,曲がいい,歌がうまい,顔がかわいい,意外とセクシー,守ってあげたい,性格よさそう,学生生活がんばっているのがいい…。ずいぶんいろいろな答えが挙がってきそうだ。ということで今回は,「倉木麻衣の人気の秘密」について考えてみたい。
結論から言うと,倉木の魅力はその可塑性にあると思う。つまり,あれだけ大ヒット曲を連発しすでにスーパースターであるにもかかわらず,まだ「完成品」ではなく「素材」としての魅力を持っていて,自分の手によって自分だけのものに作り上げていくことができるような魅力とでも言えばいいだろうか。
たとえば,倉木のチャートNo.1ヒットは驚くほど少ない。実は「Stay by my side」と「Winter Bells」のわずか2曲しかない。その代わり初登場2位の山を築き,最近の3曲「Time after time」「kiss」「風のららら」は3位とまりであった。ファンにとっては残念な結果ではあるが,しかし,「よーし,次こそは自分の力で1位にしてみせる!」という「元気」が出てくる。選挙のときに当選確実な候補者が選対の引き締めを図るために「苦しい戦いを続けております!」と連呼するのと同じだ。「自分の力で何とかしてあげたい…」。倉木はそういう魅力に満ちている。つまり,完成品ではないのだ。ファンはそこに自分が手を加える余地があると感じ,つい応援したくなる。この「中途半端さ」こそ,実は彼女の最大の魅力ではないだろうか。
かつてエルヴィス=プレスリーは白人でありながら黒人のように歌い,マイケル=ジャクソンは整形を続け,黒人なのに白人のようになり,大人なのに子どものようでもあり,男なのに女のようでもあった。そして,こういった「どっちつかずさ」が彼らを歴史的スーパースターに仕立て上げた。振り返って倉木はどうだろうか。
彼女のデビューは何度も言うが鮮烈であった。「こんな子どもがこんな大人びた歌をあんなにも上手に歌うなんて」という驚きは日本中に広がっていった。その後も人気者なんだけれども1位は取れない。東京じゃなくて大阪?(京都?)に住んでる。セクシーなんだけど子どもっぽい。頭よさそうだけどどこか抜けてる。歌うまいんだけどライブでは間違える。歌手なんだけど大学生…等々,倉木は非常に「中途半端」な存在である。だからこそそこには無限の可能性があり,常に留まることを知らず発展し続ける,この先どこまで伸びていくか分からない,ということが彼女の最大の魅力なのではないか。