No.6


 このライブは「Wish You The Best」ツアーへの橋渡しとなる重要な位置にあると思うが,テクニック的には決して「最高のパフォーマンス」とは言えないかも知れない。「Love, Day After Tomorrow」はやはり緊張のせいかやや音程が不安定であり,二曲目の「Delicious Way」では,歌う箇所を間違えたのか,一瞬ボーカルの空白が見られる。その意味ではこのパフォーマンスについて辛口の評価をされる方も多い。しかし,私はこのライブを少し違った視点から捉えてみたいと思う。

 フィギアスケートなどを例に取れば,審査方法には技術を競う「規定」と,美しさ,聴衆に与える感動の度合いを示す「芸術点」と,二通りの採点基準がある。テクニックに優れた選手が,往々にしてロボットのような正確さに頼りきり,「感動」を与えるという点において今ひとつであることもオリンピック等を通してよく見る。そして,倉木のパフォーマンスである。

 倉木は,ボーカリストとしては線が細い。圧倒的な声量で朗々と歌い上げるタイプではなく,繊細なギリギリの表現力でもって聴くものの耳ではなく「心」に直接感動を与えるタイプの歌手である。どちらかといえばライブパフォーマーとしてよりはレコーディングアーティストとしての方が高い評価を得ている。そのために時として,PAのコンディションや体調等により,技術的には完璧でないこともある。しかし,そんなときでも,倉木は聴くものの心に直接響く歌声と表現力を持っている。「規定」では90点のこともあるが,そんなときでも「芸術点」では120点をたたき出してくれる。


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