しかし,これはもちろん「売り上げ」だけの問題であるので,その他の要素についても検討してみよう。
倉木がそのキャリアの初期において大ヒット曲を連発したのには,当然のことながら作曲家大野愛果の力が大きい。しかし,同じ路線を続けていけばどうしてもやがて飽きられる。40年同じことをやっていても飽きられないローリング・ストーンズのような例もないことはないが,商業音楽はどうしても顧客に対するサービスを念頭において制作されなければならないので,定期的なアーティストのイメージチェンジは避けて通ることができない。音楽史をひも解いてみても,ビートルズや山口百恵はそれに成功し,ベイ・シティ・ローラーズやピンクレディは失敗しシーンから消えていった。
倉木の場合も,実際には4曲目のシングルに決まりかけていた大野作曲の「This is your life」が,イメージの固定化を恐れて急遽サイバーサウンド作曲の「NEVER GONNA GIVE YOU UP」に差し替わったという経緯がある。徳永はそのアーティストの命運をも左右する重要な局面「イメージチェンジ」の大役を担わされた。その結果は…,「Stand Up」は「初期三部作」に続く大ヒットとなり,徳永はその重責をよく果たしたのだ。その後も,「Winter Bells」で久々のチャートNo.1を獲得するなど,実際には現在の「歌手倉木」は,作曲家徳永の存在なしには考えられなくなっている。