「ビートルズ音楽論」


8 第八期 アンソロジーの時代  (1995年以降)

 1995年,『BBCライブ』が発表されるころから,オフィシャルなビートルズの伝記ビデオを作ろうという試みが本格化し,“アンソロジー・プロジェクト”が開始された。まず,秋に(日本では大晦日)縮小版ビデオがテレビで放映され,96年になると,その“サウンド・トラック”ともなるアルバム『アンソロジーT〜V』が発表された。このアルバムでは,ビートルズが,かつての大ヒット曲をどのような過程で作りあげて行ったかが克明に記録されているとともに,『リーヴ・マイ・キトゥーン・アローン』『イフ・ユー・ガット・トラブル』『ホワッツ・ニュー・メリー・ジェーン』などの,それまでブートレグでしか聞くことができなかった未発表曲が,初めて公式に紹介された。しかし,何よりも忘れてはならないのは,『フリー・アズ・ア・バード』『リアル・ラヴ』の2曲である。これらの曲は,解散後ジョンが残していたプライベート・レコーディング・テープに,他の3人がオーバーダビングを行い,25年ぶりに“ビートルズの新曲”として発表された。当然純粋な“ビートルズ・ナンバー”ではありえないが,ファンにとっては最高のプレゼントとなった。1996年末までには『アンソロジー』の完全版ビデオのリリースも完了する。今,“ビートルズ”とファンにとって,新たな時代が幕を開けた。



終わりに

 ビートルズの音楽について書くと言ってこの小文を始めてはみたものの,そこにはかなりの苦労もあった。結局,常に手もとに置いてあった参考書は,『ビートルズ全曲解説』(ティム=ライリー 著 岡山徹 訳 東京書籍)と,『ビートルズ事典』(香月利一 編・著 立風書房)であったが,それらの書物を参考にすればするほど,この文章から,自分自身の意見や最初にビートルズの曲を聴いたときの感動が希薄になってゆくし,参考書に目を通さなければ,不正確で不完全な記述になる恐れがある。その中で,ある程度時間を気にしながら書き上げたために,錯誤や重大な見落とし等が多々あると思われる。読者の方でお気づきの点があれば,ぜひ電子メールで,お知らせいただければ幸いである。この文章は,ビートルズのことを余りよく知らない方には,ちんぷんかんぷんであろうし,筋金入りのビートルマニアなら,そんなことは百もご承知という事実の羅列であろう。しかし,それこそが私のねらいでもある。“みんな知っていることを,仲間内でこっそり話し合ってみたい”そんな気持ちで書いた文章だと思って頂ければ嬉しい。解散後の“元ビートルズ”については,もう少し詳しく書くべきでも,あるいはまったく書かないべきであったかもしれない。大変中途半端な記述になったが,もとより,この文章は新事実の発見を告げるスクープでも,“ビートルズ学”に寄与する論文でもなく,ただ一人のビートルマニアの徒然草である。そうお考えになれば,まずい文章も,不確実な記述も許して頂けるのではないか。そんなふうに楽観的に考えて筆を置くことにする。