VNCM-9002
\3,059 (tax in) NORTHERN MUSIC
Release:2008年01月01日
2008年1月1日,元旦に発売日を設定してきたということで,同じく2004年1月1日が発売日であったベストアルバム「Wish You The Best」を思い出すが,2007年の年末に全国紙に全面広告が打たれたことを考えても,GIZA studioからNorthern music移籍後初となるこのアルバムに賭ける意気込みが伝わってくる。
直前の韓国や台湾でのライブ活動を通じて培った“国際的”なムードが基調となり,その上に“大人になった”Mai-Kワールドが繰り広げられる。
そのコンセプトやよし。
しかし,聞き込んでいくうちに評価の困難さを感じてしまったアルバムでもある。
一番の問題は先行した“シングル曲”と今回のアルバムで初めて耳にする“アルバム曲”の間にあまりのアンバランスが存在することだ。今回収録された“シングル曲”は(準シングルともいえる「Born to be free」)を含めて全5曲。それらの質にばらつきはあるものの,皆それなりに成功したヒットシングルである。これまでのアルバムと比べても決して数が多いわけでもない。しかし,敢えて言おう。今回はシングル曲の収録は失敗であったと。
その一番の理由は,逆説的ではあるが,“アルバム曲”があまりに見事なコンセプチュアル・アートになっているからである。
では,私が考える“アルバム曲”のコンセプトとは何か。
それは,「都会の喧騒の中の孤独」。
そして,その中で繰り広げられる一夜の物語。
以下,ストーリーは曲にして語らしめよう・・・。
このアルバムの底辺を形作るのは,やはりなんといってもこのタイトル曲「One Life」。この曲のプロモーション・ビデオがニューヨークの街並みを背景としていたところから余計にそう感じられるのだろうが,「都会の喧騒の中の孤独」というイメージを強く感じてしまう。そこにはマンハッタンの下町のこじゃれたジャズクラブで(行ったことはないが…),大して飲みたくもないカクテルのグラスを傾けながら,そのグラスの向こうに来るあてもない恋人を待っている物憂げな女性の姿が透けて見える。やがてステージでは,(若いころの)Billy Joelがピアノの前に座り,「The Stranger」を歌い始めるだろう・・・。
決してポップなヒット性がある曲ではないのだが,このアルバムという閉じられた扉を一撃でこじ開ける力を持っている。PAUL McCARTNEY & WINGSの「Red Rose Speedway」のドアが「Big Barn Bed」で叩き割られたときの衝撃を思い出した。
やがて彼女の思惑とは関係なく,ステージには別のシンガーが上る。しかし,その声は彼女の耳には入って来ない。最後に会ったそのとき,二人の間に何があったのだろうか?かつて“Tシャツ脱ぎ捨て”裸で“壊れるまで抱きしめ”あった恋人との間に吹き始めたすきま風。あの幸せな日々はもう帰ってこないのだろうか・・・。飲みなれないお酒に心惑わされ,普段は決して流すことがなかった涙が彼女の瞳を濡らす。
そして二人の確執の原因が静かに語られる。どうやら彼女の苦しみの原因は,彼氏の“隣で幸せそうに微笑むあの娘”の存在であったようだ。酔いが回るほどに過去の楽しかった思い出が頭の中を駆け巡り,苦しみが募ってくる。しかし,気丈な彼女は“偶然を装い”さりげなく気持ちを伝えることなどできない。いつの日にかきっとあなたを振り向かせるという21世紀の“強い女”の姿が目に浮かぶ。さしずめ,若き日のヒラリー=クリントンか。
そして彼女は“この歌をかなで続け”“君が必要”と彼に告げようと心に誓う。そのとき,彼女の心は,ステージのシンガーとひとつになっていた。
夜は更けていく・・・。