Honey, feeling for me

 テーマは「遠距離恋愛」。関東から関西への転校経験を持つ倉木にとっては,決して想像の世界の産物ではないのかもしれない。しかし設定は多少不可思議。

「もうすぐ彼が逢いにくる」

と歌いながら,彼女自身が

「ぎりぎりで飛び乗るTrain」

いったいどちらが能動的に行動しているのであろうか?

 その答は「Train」にある。

 この列車は女性が時間を気にしながら乗車していることを見ても,決して大阪環状線や東京山手線の類の都市電車ではなく,時刻表の設定を念頭に置いた長距離列車,おそらくは新幹線ということになろう。しかし,「彼が逢いにくる」のであるから彼女は彼の部屋へ行くのではない。つまり,二人はお互いの住所の中間点で落ち合うのである。そこで倉木の生活範囲からこの逢瀬の場所を推察すると,女性が大阪,男性が東京という仮説が立てられ,ということは,この二人は(のぞみ号に乗車するという前提で)名古屋でデートを楽しむということになる。

 相手の男性を「君」と呼ぶときの倉木は,いつも自立した強い女性を演じてきた。しかし,歌詞の中には彼に逢いたくて涙を流す弱い女性が登場する。不思議だなぁと思って曲を聞いていたが,検討の結果女性からも能動的に行動していることを考えれば,そこら辺りの事情も十分納得が行く。

 使われている言葉はファンタジー色が濃い。曲の雰囲気によくマッチしている。


P.S ♡ MY SUNSHINE

 主人公は男性。この男性が毎朝何らかの形で出会う女性に愛情告白のラブレターを綴り,いろいろと当たり障りのないことを書いた最後に「追伸 君が好きです」と書くという曲。

 プロモーション・ビデオの印象が強いので,男性サラリーマンが毎朝お目当ての女性店員がいるコンビニを訪れるというシーンが目に浮かぶが,この手紙はしゃれた便箋ではなく「白いノート」に書かれている。このノートはルーズリーフであろうか。そこから考えると,むしろ設定としては男性は高校生か大学生。女性は“毎日出会う”同級生または同年代の学生と考えるほうが自然。

You look at me〜one

 倉木自身が

「ダンシングのカップリング曲であるが評判がいいのでアルバムに入れた」

と語っているように,アルバムコンセプトであるストーリー性はあまり持っていない。いつもの倉木の人生応援ソング。

駆け抜ける稲妻

 ビートルズの"The Long And Winding Road"に,

The long and winding road
That leads to your door
Will never disappear
I've seen that road before
It always leads me here
leads me to your door.

君のドアへと続く長く曲がりくねった道
それは決して消えることない
懐かしい道
その道をたどれば 僕はいつもここへ戻ってきてしまう
君のドアまで連れて行ってくれよ

とあるのを思い出してしまった。

 主人公の男性はつらい失恋を経験したのであろう。その心は,あたかも目の前の光景のごとく,降り出した雨と鳴り始めた雷鳴の中ずぶ濡れになって行く。しかし,いつもの“前向き倉木ワールド”の中では,彼は決して希望を失うことはない。もう一度やり直して見せるという強い気概が感じられる。

 曲は"Fairy tale"を思わせる怪奇映画のオープニングのような呟きから始まる。タイトルをイメージさせるドラマチックな構成である。悲しい場面を歌った曲などであるが,途中で何回か繰り返される英語のコーラスの中では

  "Everything's gonna be allright."

と歌われている。どんなときでも最後は必ず“alwaysな”倉木である。


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