FAIRY TALE

CD No.:GZCA-5021  Release:2002年10月23日


*オリコンデータ
  1. 最高順位: 1 位
  2. 登場回数:37 回
  3. 初動枚数:404,010 枚
  4. 累積枚数:745,812 枚


 はっきりと言おう。この「FAIRY TALE」は倉木麻衣の最高傑作である。いやそれだけにとどまらず,世界ポピュラー音楽界においても,きわめて注目に値するアルバムと言うことができる。

 「Perfect Crime」のところでも述べたように,この「FAIRY TALE」は優れたトータルアルバムということができる。その片鱗はすでに「Perfect Crime」にもあった。しかし,試行錯誤的であった「Perfect Crime」に対し,この「FAIRY TALE」は明確な意図を持ってコンセプトが作り上げられ,ただ楽曲だけではなく,アルバムジャケットも(帯までも!レーベルマークも),そしてプロモーションビデオまでが一体化した一つのコンセプトを持ったトータルアルバムとして制作されている。1960年代の,ロックがもっとも華やかだった時代を知る者にとってはまさに感涙ものである。そして,そのコンセプトとは,タイトルとおり「おとぎ話」である。しかし,その裏に見え隠れするのは「おとぎ話を信じることができたこども」から「もう信じることができないおとな」へ移行する10代後半の少女の危うげな心情。つまり,この時期の「青年」「もう"こども"ではないが,まだ"おとな"でもない」という非常に中途半端な時期に当たる。そこには「青年心理学」「マージナル=マン」と呼ばれる,非常に危うい人間の姿が浮き彫りとなる。この「FAIRY TALE」において,倉木はその「マージナル=マン」の危うさ・脆さを背負い込み,こども時代を振り返りながらも,未来へ向かっての第一歩を踏み出す宣言を行っている。控えめに見ても「21世紀のエミール」と呼んでもいいのかもしれない。

 アルバムの曲構成にも注目したい。

 作家陣の顔ぶれを見て気がつくことは,このアルバムから作曲家が前回までの大野愛果中心から,大野=徳永暁人併用路線に転換していることである。しかしそれだけではなく,際立った特徴は,徳永の曲がアルバムの前半部分(昔のLP時代で言えば「A面」に当たるところ),大野の曲が後半(B面)に集中していることである。

 一般的傾向として徳永の曲はパワーとスピードに優れ,大野の曲は繊細な芸術性に優れる。その両者の曲をこの順番で配置することにより,このアルバム全体の「音楽的ムード」が規定される。すなわち,まるでジェットコースターにでも乗ったような勢いで,スリルとサスペンスに満ちた旅を経て異次元空間に到達した我々聴衆一向は,途中からその異次元空間の中に浮遊し,さまざまな幻想世界を経験し,そして倉木とともに成長し,自分を見つめなおして現実へ帰ってくる。その旅は計算しつくされた次元旅行である。おそらくはプロデューサーの西室斗紀子氏の手腕と思われるが,まさに「天才は天才を呼ぶ」というお手本のような事例であろう。


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