「Can't forget your love」 もシングルヒット曲であるが,もともと幻想的なムードを持つ曲であるためにアルバムの雰囲気を壊すことがない。また,曲のテーマも「時空を越えた愛」であるため,アルバムの指定席にしっくりとマッチする。この曲は非常に人気がある曲であるにもかかわらず,ライブでは歌われずベストアルバムにも収録されなかった。他の理由があればいいのだが,もし英語詞の文法に誤りが一箇所あると思い,気恥ずかしくて歌わないのならその心配はまったくない。シングル解説でも述べているように,誤りではないと読むこともできるからだ。もっと正当な評価を与えてもらいたい名曲である。

   「Trip in the dream」 は,きちんとテーマに沿った作品。魔法を使い空を飛ぶ主人公はあたかもピーター=パンのよう。この曲も非常にパーソナルで,はっきりと自分自身のことを歌っている。歌詞カードには記されていないが,最後の英語コーラスは16,17,18,19歳と倉木の等身大の成長を歌う。

   「Not that kind a girl」 はストレートにアルバムテーマを歌った作品。

 「子供でも大人でもない 今の私を」

と,「マージナル=マン」が宣言される。そしていつものテーマ「自分らしさ」が歌われるのだ。この倉木の「分かり易さ」こそが,彼女をここまでのスーパースター足らしめた原因ではなかろうか。

 「Like a star in the night」 もシングルヒット曲。アルバムテーマとは直接関係はないが,ゆったりしたラブ・バラードだけに雰囲気を壊すことはしない。

   そして「不思議の国」 である。倉木自身がこの曲はいつものように曲を提示されてそれに詞をつけたのではなく,自らが先に詞を書いて大野愛果に曲の提供を求めた旨の発言がある。とすれば,この曲こそ,このアルバムの中で倉木が最も言いたかったことをあらわしているのかもしれない。

   曲のモチーフとなるおとぎ話はやはり「不思議の国のアリス」

 白ウサギの登場に触発されて主人公が出発するのは不思議の国。そこへは

   「時空の中にある道をたどり,光る道を進んでゆく」
 「過去も未来もつながって 輪廻転生が繰り返される世界」

 「Start Fairy tale!」

  と,倉木の道案内でおとぎの国へ出発した我々は,ここで自分自身の力で前進してゆくすべを学んだ。そうして,両親も祖父母もずっとずっとその向こうのご先祖様たちもやってきたように,移り行く季節の中で自分の信じた未来へと進んでいくのだ。その向こうにはやがて「Time after time」のメロディが聞こえてくるだろう。そして倉木は最後に過去を突き抜けて未来への旅立ちを高らかに宣言するのだ。

 「Let's go now!」

と!

 そして,こどもたちは大人になってゆく。しかし,この新しい菩薩の先導を得た彼ら彼女たちは,もう決して道を見失うことはなく,明るい未来へ進んでゆけるだろう。

   「Perfect Crime」の最後でも述べたように,実はこの「不思議の国」でこのアルバムの世界は終わる。白ウサギや白雪姫やピーターパンたちに別れを告げた倉木は,我々を連れて「トンネルのこちら側」へ戻ってくる。そして,いわば"アンコール"として,「fantasy」 が登場する。そして,ここで現実に立ち返った主人公は「現実の過去」をファンタジーとして消化し,「また明日会おうね」と明日へと歩みだすのだ。

   「アイドル(本当の意味での)」は往々にしてアイデンティティを確立していない「青年」に巨大な影響力を持つ。時にそれは岡田有希子事件のような悲劇を生むこともあるが,実際我々の行く先を示す灯火となってくれることがある。ここに,このときをもって,倉木は「カリスマ」としてわれらの先頭に立った。


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