「冷たい海」 も暗い曲だが,シングルのところで解説したように,少年犯罪の続発が喧伝される当時,この「子どもが暮らしにくい時代」に生きる子どもたちへの応援歌であった。ということで,この曲も内容は少しも暗くない。それどころか,倉木は菩薩の顔をもって,子どもたちにありったけの慈悲を垂れるのである。
「いつかは あの空に」 は,実はこのアルバムの中で非常に重要な意味を持つ曲。どういう意味かと言うと…。
1960年代後半から70年代にかけて,ロックの世界では「トータル・アルバム」あるいは「コンセプト・アルバム」と言う概念が流行した。1枚のアルバムを単なるヒット曲の寄せ集めとするのではなく,全体を通して一つのテーマ性を持った「芸術作品」に仕上げるというものである。その難解さが嫌われて最近では余りはやらないようだが,その代表作であるビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」は次のような構成を持つ。
このアルバムはビートルズが架空のバンドである"サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド"に扮して,架空のコンサートを繰り広げるというものである。ここでは,次々に多彩なゲストがステージ上に登場してサイケデリックな万華鏡の世界が展開されるのだが,アルバム最後から2番目の曲「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド・リプライズ」で,主題がもう一度登場し,コンサートの終了が宣言される。しかし,その後拍手喝采の中から次の曲「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」が登場するのだ。すなわち,前曲で終了した仮想コンサートのアンコールとしてこの曲が演奏されるわけである。
倉木はよく宇多田ヒカルに似ていると言われたことがある。しかし,「倉木麻衣論」でも述べたように,宇多田の曲を余り知らないと言うせいもあるが,私は余りそうは思わない。むしろ,「ビートルズの影響」というものを露骨に感じてしまうのである。ビートルズの現代音楽への影響力を考えれば当然のことなのだが,倉木のスタッフの中にビートルズに影響を受けている人物が数多くいるのではないか。そして,直接意図はしなくてもその方法論を採用しているのではないだろうか?私はそう感じてやまない。
つまり,アルバム「Perfecr Crime」はこの「いつかは あの空に」でもって終わる。倉木はこのアルバムに関して「一本の映画を見るようなつもりで」といっているが,まさにこの曲はいかにも映画のエンディングテーマでありそうな曲。このアルバムは,ここで幕が閉じられるのだ。