そして,アンコールの声がかかり,歌姫は再び女神の姿でステージに登場する。「The ROSE〜melody in the sky〜」 のメロディが聞こえてくる。だから,たった2分なのだ。5分であってはならないのだ。この曲は「Perfect Crime」に隷属する曲ではなく,それを越えて,次へと進んでゆく曲なのである。

 この曲はひたすらシンプルで,美しい。歌詞はすべて英語で歌われるが,それは悪く言えば高校生の英作文的な未熟さを持ちながら,聞くものにイノセントな喜びを与える神々しさを持つ。最初に聴いたとき,私はこれはバーブラ=ストライザンドのカバーかと思った。そのくらいの圧倒的な,天まで届く歌唱である。倉木の声は奇跡的に天国の高さまで跳ね上がり,そして感動を込めて大地を揺さぶる。日本人ポピュラーシンガーが聴く者にかつてこれほどの感動を与えてくれたことがあるだろうか。スタンダードナンバーになりそうな風格を持ちながら,決して誰一人として他人のカバーを許さない高みに達した曲ということができよう。

 ちなみにこのやり方は次回作の「FAIRY TALE」でも踏襲される。「不思議の国」で終了したおとぎ話の世界は,次の瞬間「fantasy」として,現実の姿を持って甦るのだ。

 「Perfect Crime」の結論。それは人それぞれではあるだろうが,私にとってはこう映る。すなわち,このアルバムはセールスを狙うために先行するシングルをぶち込んだ「ベスト・アルバム」の姿を採る。倉木の楽天的な明るさに,あるいはその優れた歌唱に,またはその容貌に惹かれたファンなら,十分納得してこのアルバムを購入するであろう。それで,第一目標は達成される。しかし,倉木とスタッフはそれでは満足できなかった。どうしてもこのアルバムに「隠しメニュー」を挿入したかったのだ。そしてそこには60年代的なやり方で「コンセプト・アルバム」の手法が採用された。しかし,大上段に振りかぶってはうっとうしがられる。ここでは,隠し味に使っておこう…といったところか。その意味で,実に謎めいたアルバムとなったが,倉木はこれで満足はしない。さらに一歩進めて,名作「FAIRY TALE」を作り上げることになるのである。


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