徳永暁人のペンになる「PERFECT CRIME」 は,アルバムのオープニングナンバーにはふさわしくないほど重い。サスペンスドラマの主題歌にもなったようだが,それを意識しすぎたか?ただ,詞の内容は曲調とは似つかわしくないほど前向きで,希望に満ちているのが不思議。

 相変わらずこういうヘヴィな曲での倉木の歌詞の意味は分かりづらいが,ここでは"perfect crime"「成功するもの」としては語られていない。むしろそんなものはありえないからそこから抜け出して新しい人生を見つけようという,いつもの楽天的な倉木節。最後は"You can find the way out"(抜け出す道はきっとある)といつもの人生肯定的応援歌になっている。不思議な世界。

 ちなみに"I can stop the loneliness."は杏里の「悲しみが止まらない」(1983)で"I can't stop the loneliness."と歌う裏。何かサジェッチョンを受けているのか?

 「Start in my life」 は曲に関してはシングル解説で書いたが,「PERFECT CRIME」の次の2曲目にあると前曲の重々しさを中和してくれ,ほっとする瞬間を作ってくれる。そしてこれも人生肯定的応援歌。

 そして,3曲目の「Reach for the sky」 もやはり人生肯定的応援歌。気になって全曲のテーマを確認すると,重苦しく未来への希望が感じられない曲は「think about」と意外なことに「The ROSE」の2曲だけ。上で,「「ヒット曲の寄せ集め」の色合いが濃く,トータルな意味での「アルバム」としての香りがしない」と述べたが,音楽的にはトータル性を感じないものの,実は歌詞の意味を詳細に見てゆくなら,アルバム全編を通して「さあがんばろう!人生まだまだこれからだ!」という人生肯定的なメッセージが読み取れる。意外なところで非常にポジティブなトータル性を感じてしまう。倉木側の狙いは実はここにあったのかもしれない。だとすれば,なんという周到な「作戦」であろうか。

「Brand New Day」 も軽快な人生応援歌。いつも思うことだが,倉木という人は非常に多くのボーカルパターンを持っている。「七色の声」を使い分けることができる彼女は,ここではややコミカルな色合いを持たせて「普段の自分と違う」声で,「普段の自分と違う」新しい明日を見つけに旅に出る。この曲の主人公は「列車」という伝統的な移動方法と「万年筆(水性サインペン?)」という伝統的アナログ器具でメッセージを残す。倉木の曲が,ただ同世代の若者だけでなく,私のような高度経済成長を経てきたものに大きな感動を与え続けているのは,実はこのような「アナログ性」に原因があるのかもしれない。ちなみに彼女自身の著書「myself music」(p.105)によると,この曲はなぜかディレクターにも放って置かれたためコーラスラインは自分で考えたということ。そういうことができる才能があれば,やがて"music written by Mai Kuraki"という曲が登場するかもしれない。楽しみなところだ。


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