倉木麻衣という女性は大変美しい人である。いや,造作が美しいというよりは内面から滲み出してくる「魂の美しさ」を感じさせる人なので,いつまでたっても経年変化を感じさせず,いくつになっても美しい人だと思う。しかも各パーツを取ってみれば非常にセクシーな女性で,もし進む道が違っていたらグラビアアイドルでも第一人者になったことであろう。
しかし,なぜか倉木は21世紀のセックスシンボルにはならない。どんなに魅力的な女性であっても,倉木はあまり「性」を感じさせない。いわば「少年」の面影を残した中性的な魅力を持つ人物である。普段のコスチュームなどからそう思わせるのであろうが,決してそれだけではない。それは,彼女の「歌詞」中に現れる「愛」の姿によるものではないかと思われるのだ。
もちろん倉木の曲も,多くはこのエロースの愛を歌ったものである。
たとえば「風のららら」で,
「もう離さない 君に決めたよ」
と歌われるとき,主人公は自分のために彼女を愛することを決めたのであって,彼女を愛することによって利益を得るのは自分である。しかし,だからこの曲が「いやらしい」とは誰も思わない。エロースとはそういうものであることを再確認しておきたい。
「Make my day」の
「強がってばかりでも本当は きっと一人きりではいられない」
は,自分が辛いから彼にそばにいて欲しいのであり,
「I don't wanna lose you」では,
「I don't wanna lose you もう少しだけ 私だけ見ていて欲しい」
というが,彼を取り戻せば「隣で微笑む ウワサの娘」は不幸になる。すなわちエロースとは「利己的」な愛でもある。
ところで,アガペーとはそのエロースとは逆方向の愛,奪う愛ではなく「与える愛」である。しかし,通常は人間に可能な愛ではなく,(特にキリスト教において)神のみが持つ無限の無償の愛であるとされる。