倉木の歌唱に関する批判の中で今まで一番多かったものは「声量不足」であった。
私は倉木の歌唱法の特質から見て,それを指摘することは角を矯めて牛を殺すことになると警鐘を鳴らしてきたが,今回のライブの歌唱を聞いて驚いた。倉木は豊かな声量でもって名曲の数々を見事に歌い上げているのである。もちろんそのために彼女本来の「繊細さ」が失われてしまっては元も子もないのだが,今回は決してそんなこともなく,強弱メリハリをつけて立派な表現力を持ってステージに君臨した。
特に圧巻は,前半をアカペラで歌った「Stay by my side」だろう。この速いパッセージを持つ難曲を彼女は楽器の支援を受けることなく堂々と歌いきった。大変な成長を感じた。
また,「Stand Up」や「Feel fine!」などの激しいリズムのアップテンポのナンバーも,アクションを交えながら最後まで破綻なく見事に歌い上げた。「声量」という点では,もはや誰の非難も受けることはなくなるだろう。
唯一残念であったのは,いまだ歌いこみが足らないからであろうが,ツアーの初期段階においては「明日へ架ける橋」が歌詞を間違えるとともに,音程が多少不安定になったことである。今後ライブの後半になれば歌いこんで,ファイナル近辺では素晴らしい歌唱を聞かせてくれたが,この曲を楽しみにライブへ来ている観客も多いため,更なる精進を望みたい。