No.8


 倉木を優れたボーカリスト足らしめている才能に,きらめくファルセット(裏声)の美しさがある。他のどんな歌手もこれほどの感動を与えてくれる声を持たない。誰も真似できない。中でも「え段」の音がファルセットで語尾に来るとき,その美しさは頂点に達する。「えけせてねへめえれゑ」の高音だ。大野愛果の激しく上下するメロディの曲に多いかとも思ったが,実は「Feel fine!」にこそそれを感じる至福の瞬間が多い。この曲の大ヒットの背景には「え段の響き」があったのではないだろうか? 逆にシングルの中で一番売り上げ枚数の少なかった「風のららら」にはこの「ファルセットe」が一度も登場しない。ひょっとしたらこの「ファルセットe」はヒットの原動力なのかもしれない。

 そしてこのライブはアンコールの「Stand Up」で大団円を迎えるわけだが,この曲における倉木のパフォーマンスにはまさに鬼気迫る迫力がある。「na na na say!」と観客を煽りながら一歩一歩聴くものを高みにいざない,すざましい迫力でもって聴衆を圧倒していく。これほどのパフォーマンスが出来るアーティストが他にそういるだろうか?そこに私はミック=ジャガーの影さえ見たのだ。

 この小ライブについて長々と書いたが,要するに倉木のライブパフォーマーとしての能力には何の心配も要らないどころか,現時点で,日本を代表するライブパフォーマーの一人と断言して差し支えないだろう。これだけの成長を見せてくれた倉木のことである。「Wish You The Best」ツアーがどれだけすばらしいものになるだろうか,今からそのときが待ち遠しくてならない。

 そして今夜,幕が開く。


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