デビューシングル「Love, Day After Tomorrow」の歌詞を例にとれば,そこには初期の「歌詞の音韻化」の例が多く聞き取れる。
まず,英語詞が多い。多くの日本人には一聴しただけでその意味を聞き取ることは困難であろう。さらに日本語の音声ルールの無視がある。たとえば,
ただ 君と同じ速さで歩きたいから…
という一節は日本語音声のルールを無視して歌われている。日本語の「ただ」は通常最初の「た」,すなわち太字表記の部分にアクセントが置かれる。しかし,倉木はここでこの「ただ」を後ろの「だ」にアクセントをおいて発音する。もちろん曲がそうだからだが,(このあたりの音声から,彼女の作詞法がまず曲を与えられてそれに詞をつけていく方式がとられているということが想像できる)これにより,この「ただ」は「just,only」の意味を持つ単語ではなく「ta-da」という単なる音声にと変質している。もちろん,倉木が敢えて意識して行った作業ではないにしても,結果的に複雑なR&Bのリズムに日本語を乗せることに成功している。