一秒ごとに Love for you
久々に倉木麻衣が“気持ちの良い”歌を歌ってくれた。
どうもここの所,奥歯にものがはさまったような曲が続きフラストレーションがたまっていたのだが,この軽快でストレートなROCK/POPナンバーはそんな思いを吹き飛ばしてくれるだけの力を持つ。
冒頭の起伏の少ないメロディは余り大野らしくないが,バグルスの「ラジオスターの悲劇」を思わせるリードメロディ。下降して来るこのメロディは70年代の香りをぷんぷんさせて,「Stand Up」にもつながる趣がある。
曲としては久々の会心作ということができ,実際の私の周辺でも“倉木麻衣の今度の新曲はいいですね”と言う声を幾度も聞くので,「名探偵コナン」のタイアップも今回はうまく行ったのではないかと思う。
ただ,詞には少し疑問が残る。
この曲の世界観を考えてみると,次のようなものか。
主人公の女性には同棲している恋人がいた。彼女は彼にぞっこんのようだが,彼の方はそれほどの強い愛情を感じていないのか,彼女に対する扱いはあまり丁寧なものとは言えない。女性も恋人との関係に疑問を感じて悩み続けてきたが,何らかの理由でその迷いを吹っ切り,やはりこれからも彼のことをずっと愛し続けていくことを心に誓う・・・。 |
やや当惑してしまうのだが,これはどうも今までの倉木の恋愛観とは少し違うような気がする。
倉木は今まで,何か問題が起こるたびに“きちんとそれを解決し”,あるいは心の中で“その問題に決着をつけ”新しい一歩を踏み出していった。しかし,ここでは“恋人がいる”というテーゼに対して“恋人とうまく行っていない”というアンチ・テーゼが示されてはいるるものの,それらは止揚(アウフヘーベン)されることなく,うやむやのうちにごまかされてしまった。ただ,これからもこのままの関係を“自信を持って”続けていくらしい。これは今までの倉木の態度ではない。そのため,私はこのよくできたポップソングを聴いても,歌詞の面においては何か隔靴掻痒の思いを拭い去れないのである。
ずっと...
そして,ふと気づいた。
ひょっとしたらこのカップリング曲は「一秒ごとに Love for you」のアンサー・ソングになっているのではないかと。
この曲でもやはり主人公の女性はあまりうまく行っていない恋人を持つ。そして常に「このままでいいのかな?」と自問し続けている。
本来,男性を“君”と呼ぶときの倉木は,常に凛として,孤独を恐れない強い女性であった。しかし,ここでは違う。彼との交際に大きな疑問を感じながらも決してその原因を分析することはない。友人にも相談したのであろうか,きっと別れるように助言を受けたようだ。しかし,倉木はこの助言にさえも,「幸せの形はそれぞれ違う」からと聞く耳を持たず,何の根拠も示すことなく「だから・・・」と彼に対する愛が永遠であることを表明する。
この2曲を聴いて感じることは,倉木自身に何か大きな心理的変化があったのではないかと言うこと。
ひょっとしたら,歌詞のとおり,周りからは認められにくい自爆テロ的な恋愛をしているのではないか…。
老婆心ながら,心を痛めている次第である。