夢が咲く春
一見70年代の“ソウル・ミュージック”を思わせるような“ファンキー”なベースから始まるこの曲は,CM等ですでに聴いていたポップなサビの印象からすると,意外な地味で“シブい”展開から始まる。
「ONE LIFE」でも感じたことであるが,倉木サイドはその視聴対象年齢をかつての(名探偵コナンを中心にした)中高生から,もっと上の“大人”にシフトさせてきたように思う。
そのせいであろうか,私の周辺では40代,50代の男性から熱烈な支持を受けているようだ。
静かに始まる渋めの曲とは裏腹に,サビの部分にはポップでキャッチーなメロディが登場する。3月31日付のオリコンチャートでは,初登場第5位と健闘したが,それもこのサビの心地よさによるところが大きいだろう。(ただし,売り上げ枚数は前作より減少しているので,“運”によるところも大きいが・・・。)
一方歌詞は,どうにも陳腐さを否めない。“夢が咲く春”というタイトルコールは面白いが,その他にはいつもの作詞の冴えが見られない。“さよなら こんにちは”は一聴してビートルズの「ハロー・グッドバイ」を思い出す。
ここのところ,冬には冬の歌(「白い雪」「Silent love〜open my heart〜」)を歌い,春には春の歌を歌う…というあまりにも“歌謡曲的”な路線ともあいまって,曲の“普遍的価値”を下げているように思えてならない。チャート的には健闘しているようだが,少なくとも将来的に“倉木麻衣の代表曲”とは呼ばれそうにない印象を受ける。
You and Music and Dream
徳永の手によるポップな「夢が咲く春」に対して,こちらは大野のペンになる大バラード。メロディはあまり耳に残るものではないが,歌詞のセンスはこちらの方が秀逸。
「時の中で 広げた地図は 今はただの 紙飛行機」 という表現にはいつもの優れたセンスを感じる。
また,“キメ”になっている以下のフレーズであるが,
「I believe in you and music and dream」
ここには,“in”の一語に,倉木のこの曲にこめた強い意志を感じることができる。
実は“believe 〜”と“believe in 〜”とではかなり意味合いが異なる。
例を挙げよう。
1. I believe Santa Claus.
2. I believe in Santa Claus.
この両者の意味の違いを強調して和訳すると,
1.私はサンタクロースさんが言っていることを信じる。
2.私はサンタクロースが存在しているということを信じている。
となる。
つまり,倉木はここで,自分にとって大切な「あなた」と「音楽」と「夢」が存在していることを高らかに宣言しているのだ。
これらの“キーワード”に関しては,実はかつて「Diamond Wave」中の「Ready For Love」ですべて語られているのが面白い。
「Ready For Love」では,
I'm always strong when you're beside me.
と,自分を支えてくれる大切な「あなた」の存在を語り,
I'll be the hero you've been dreaming of.
と,その「あなた」が見る「夢」がすなわち自らの「夢」でもあることを告白し,
So Mai Kuraki Looking for music forever!!
と,自分は永遠に「音楽」を追求し続けることを宣言している。
曲調は違えど,基本的なコンセプトは同じであり,細かく見ていけば他の曲の中にも同様のコンセプトは散見されるはずだ。
しかし,「音楽」と「夢」は分かるとしても,自分にとって大切な「あなた」の存在を強調されることは,倉木の恋愛を想起してしまい個人的にはつらいところだ。
特に「You and Music and Dream」が「地球創世ミステリー マザー・プラネット 奇跡の島・ガラパゴス“命”の遺産」という“自然環境保護番組”のイメージソングになったこともあって,このCDの初回盤にはエコバッグが封入された。また,ジャケット用紙も自然にやさしい素材で作られているという。最近の小池百合子(当時の)環境大臣とのコラボレーションや環境ブログの開設などの倉木の一連の動きを見れば,その一連の流れに沿った自然な動きと見ることができる。
ただ,老婆心ながら申し上げれば,このまま終わってしまえば“倉木=エコ”はただのファッションとなり,単に“エコ・ビジネス”であったとの評価を受けるだけで,時が過ぎれば忘れ去られてしまうだろう。
ここはぜひ,立命館大学卒の“才媛環境活動家”として,イベントに参加したり,テレビの情報番組のコメンテーターを務めたり,雑誌等に寄稿するなど,音楽活動とは切り離した“環境保護活動”を行うことによって,この“エコ”の運動を地に着いたものにしてもらいたいものだ。