「Season of love」
テレビの“人情系サスペンスドラマ”のテーマソングとして制作されたこの曲は,ドラマの内容とも関連してミステリアスなムードを持った佳曲である。
シングル「Diamond Wave」の頃から60〜80年代“歌謡曲”への傾倒を強めていた倉木であるが,この「Season of love」はその集大成でもあるような感じを受ける。
私は「白い雪」の解説の中で,「白い雪」も「Season of love」も,どちらもいわゆる“歌謡曲”っぽい作品であり,何か“没個性的”な印象を受けるという意味のことを書いた。
これは決して悪いことではないのだが,ある程度の年齢を経てきた人間にはどうしても“過去の焼き直し”的な印象を与えてしまうことは否めない。
それについて多くの方から賛同意見や反論をいただいたが,それを読みながら気がついたことがある。
私の意見に賛成される方はある一定の年齢以上の方が多く,反対されるのは若い方が多いということだ。
しばらく前にブログ「麻衣をもっと」でこの“歌謡曲路線”について言及したところ,若いファンの方から「何のことか分からなかった」というコメントもいただいた。
そこでふと気がついた。
若い人は“歌謡曲”というものを聴いたことがないのではないか!?
ということである。
つまり,日本の大衆音楽の近代史をひも解けば,70年代には“演歌”と“フォーク”の間に“歌謡曲”があり,80年代には“演歌”と“ニューミュージック”の間に“歌謡曲”があった。
しかし,現在はどうだろうか?21世紀の日本大衆音楽界には,ひょっとしたら,“演歌”と“J-POP”しかなく,その中間に位置するようなジャンルは存在しないのではないだろうか!?
そう考えれば,70年代,80年代の音楽シーンを経験したファンと,21世紀しか知らない若い方々の間にはフィーリングの違いがあって当たり前ではないのか・・・。
ということは,もし,“チーム倉木”が意図的にそれをやっていたとしたら・・・。
これは,非常に深い戦略を感じざるを得ない。
同じ曲で,年配者にはノスタルジーを与え,若者には新鮮な感動を与えようというのだ。
そう思って聞き込んでみると,また面白いことに気がつく。この曲の端々から聞こえてくる断片的なフィーリングが,たとえば清水健太郎の「失恋レストラン」であったり,さらに不思議なことに,八代亜紀の「雨の慕情」であったりするのだ。つまり“チーム倉木”はここに極めて人工的に「ALWAYS 三丁目の夕日」や「東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜」でここしばらくの間ブームになりつつある“現代ニッポンの原風景”である昭和30年代〜40年代(1960〜70年代)の空気を描き,大量定年の時代を迎え,“2007年問題”を引き起こしている“団塊の世代”へエールを送っているのではないだろうか?
もとより,この曲を主題歌としているドラマ「新・京都迷宮案内」の視聴者の年齢層は,やはりその昭和30年代〜40年代を経験した層が中心であろう。その意味で,倉木サイドはドラマの方向性を性格に突いてきたといわざるを得ない。
そして,それはその時代を知らない若い世代には“斬新な”曲調に映る。
しかし,上にも書いたように,それが単なる“過去の焼き直し”であっては,やはり余りにも芸がない。そこにはちょっとした工夫が見て取れるように思える。
その工夫とは,一歩間違えると“パロディ”になってしまう“人工性”である。
面白い例がある。
若い皆さんは“ベンチャーズ歌謡曲”という言葉を聴いたことがあるだろうか?
ベンチャーズとはエレキギターを中心としたインストゥルメンタル・バンドで,60年代に一世を風靡し,後のビートルズなどのバンド・グループ,そして日本のグループ・サウンズに多大なる影響を与えたグループである。「ダイヤモンド・ヘッド」や「パイプライン」などの“テケテケテケテケ”のフレーズは,誰もがどこかで聞いたことがあるだろう。
そのころ,面白い企画があった。
このベンチャーズのメンバーに,日本ではやっている“歌謡曲”のテープを送り,それを参考に日本人向けの曲を作ってもらおうというものだ。そして生まれたのが,渚ゆう子の「京都の恋」であり, 欧陽菲菲の雨の御堂筋」などの“ベンチャーズ歌謡曲”である。多くの曲が生まれそして大ヒットし,一時期の日本歌謡界を席巻した。
そして,私は「Season of love」にその香りを感じるのだ。
つまり,団塊の世代を過去のノスタルジーに引き込むような振りをしながらも,チラッと後ろを振り向き,若い世代にこっそりウィンクを送るような・・・。かつてベンチャーズが行ったような,日本の売れ戦を意識しながら,どこか人工的で和洋折衷的なムードを持った曲創り。それが「Season of love」。これは,ひょっとしたら大変高度なテクニックであるのかもしれない。
今後の展開が妙に楽しみになってくる倉木の“歌謡曲路線”でもある。
ところで,曲そのものであるが,
“あきらめないで〜”
や
“手を差し伸べ〜”
の部分で,倉木の最も美しい声を引き出すが,しばらくの間余り聞くことができなかった,伝説の“ファルセットe”を聴くことができるのは至上の喜び。
また,
“たやす くじぶんから めをそ らさないで きずつ いては・・・」
と,日本語の文節を無慈悲にぶった切るのは“Delicious Way”で見られた倉木お得意の作詞法。キャリアの長い倉木ファンにもきっちりとごあいさつ。
さらに,キング=クリムゾンかイエスにでも後ろから追い立てられているようなDメロディ(大サビ)は,1960〜70年代の洋楽ファンに向けてのアピールかもしれない。
ともかく,この「Season of love」,恐ろしく“全部入り”の楽曲なのである。
今後もこの路線が続くのかもしれないが,倉木のこのサービス精神に感謝しながら筆を置くこととする。
Season of love | 清水健太郎 失恋レストラン | 雨の慕情/なみだ恋 | 京都の恋 |
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