1. 白い雪 作詞:倉木麻衣 作曲:大野愛果 編曲:池田大介
  2. 想いの先に...  作詞:倉木麻衣 作曲・編曲:Yoko Blaqstone

  • 価格: \1,050(税込)
  • 発売日:2006/12/20
  • 商品番号:GZCA-7083
  • 日本テレビ系「名探偵コナン」テーマソング
オリコンデータ
最高順位 4位
登場回数
初動枚数23,937枚
累積枚数


「白い雪」

 この曲についての解説を書くには予想外の時間がかかった。現在これを書いているのは12月27日深夜。つまり,「白い雪」発売からすでに一週間が経っている。これまでは大体発売2〜3日で書き上げているというのに,今回は一体どうしたというのだろう。

 もちろん,ここの所忙しかったという表向きの事情はある。しかし,実情は決してそのような当たり障りも無いものではなかった。

 実は,感想が浮かばないのだ。

 いや,「感想」がというのは言いすぎか。

 “久々の心を打つウィンターバラード”

 “切ない乙女心を雪に託して歌った名曲”

など,それこそあちらこちらの雑誌に書かれているような陳腐なフレーズはいくらでも出てくる。しかし,どうもこの曲が持っている「倉木麻衣的意義」が見つからない。これだけ毎日聞き続けているというのに・・・。

 そうこうするうち一週間が過ぎていった。

 曲自体は悪くは無い。曲名が思い出せないが,80年代のポール=マッカートニーの曲に似たような感じのものがあった。この時代のドラマチック・バラードの流れの上にある作品だろう。

 この曲がつまらないなどとは毛頭言うつもりは無い。聴く者の心を一言で貫くような「記憶の棘」“白い雪”に対比させた「銀色の涙」などのシニカルだが無垢なキーワードはこの曲に文学的な価値を与えている。中でも“白い雪”と同音を使用しながら聞くものの心を操る「白い勇気」という一語は。「Time after time」

“涙ひらり 待っていたよ”

のフレーズさえ思い出させる。この曲で倉木は“聴衆”舞っていた」の言葉を連想させながら,“読者”には待っていた」の回答を与えた。そこには掛詞を多用した平安歌人の姿さえ髣髴させたが,ここでも倉木は,そのあふれんばかりの文学的才能を示してくれている。また,

「ベンチさえ(雪で白く)色を変えて 待ちわびている 恋人たちを」

に見られる擬人化されたシチュエーションは,あたかもよくできたアニメーション映画の一シーンのような感動を与える。

 さらに歌唱の分野でも,単調な第1メロディから極端な展開を見せる“大サビ”の部分で,「Just A Little Bit」を思い出させる熱唱を披露し,そのテクニックを十分に堪能させてくれている。

 しかし,どうも倉木的レゾン・デートルが見つからない。oriconのヒットチャートでは,初動23937枚を売り上げ,第4位にランクされるという近年では大ヒットになっているというのにだ。

 ここには初期R&B時代のの一片の泥臭さも,「FAIRY TALE」の幻想性も,「Love,needing」で見せたエロチシズムの冒険性も見られない。決めの“ファルセットe”も聴けないし,崩れそうな危うい声も無い。

 つまり,余りに“ふつー”過ぎるのだ。普通が悪いわけではない。しかし,なぜ今この歌を倉木が歌わなければならばかったのかという必然性がいまひとつ伝わってこない。あえて言うなら,倉木ではなくとも,倖田來未でも浜崎あゆみでもよかったのではないか・・・そんな感想を持ってしまう曲であった。まさか,“冬だから雪の歌”という短絡的な理由で制作されたわけでもないだろうが・・・。

 最近の倉木の曲は「歌謡曲化」が目に付いてならない。かつてのR&B臭を持っていた時代の曲や,繊細なガラス細工のような歌声を見せていた頃とは様変わりして,ふとラジオ等で耳にしただけでは倉木の曲と気づかないようなものが増えてきた。

 ファンは本当にそれで満足しているのだろうか。

 佳曲であるからこそ,今,あえてそれを問いたい。  


「想いの先に...」

 この曲はまさに“80年代歌謡曲”。なぜYoko Blaqstoneにこの曲なのか・・・ここでもその存在意義が見つけられない。今回意図してかどうか2曲とも失恋の歌であったが,その失恋も“回復不能な失恋”である。かつての倉木はどんなつらい失恋の歌の中でも,必ず前向きな希望を語ってくれていたものだが,今回はそれも無い。

 意図したイメージチェンジなら,ファンならそれを受け入れよう。しかし,どうもその意図も感じられない。

 倉木麻衣はどこへ行こうとしているのか?