「Diamond Wave」
“キラキラ輝く水面,心地よい波音,光り輝く太陽…”
この海辺の3大要素を過不足なく組み込んだナンバー”…普通のレビューならこうとでも表現するのだろうか。確かに潮の香りが鼻腔をくすぐり,サーファーの姿が脳裏をよぎる。倉木麻衣らしいアップテンポな心奮い立つヒット曲・・・。
いや,しかしことは単純には運ばない。この曲には実は多くの仕掛けが隠されている。
この曲は2006年コスモ アースコンシャス アクト アースデー・コンサートに出演することを機に募集された「グリーン・エピソード」にインスパイアして制作されたものということなので,その詞の中には多くの“環境問題”への言及が見られる。「大地息吹く Green」と大地の恵みを歌い,「宇宙と地球 生命の永遠」とグローバルな鳥瞰図を示し,「この地球と共に生きてく」という強いメッセージを含んだパッセージは,この曲が単に海辺のバカンスを歌った50年代風ロカビリーではないことを示す。そこには,地球全体の環境保全を念頭に置いたプログレッシブな姿勢を感じることが出来る。まさに“倉木麻衣をユニセフ親善大使に!”と叫びたくなるようなタイムリーな曲である。
しかし曲調は70年代ディスコサウンド。「サタデーナイト・フィーバー」の世界。キラキラ光るミラーボールが,軽く酔って赤らんだ頬を照らす…。
光り輝く海辺だけではなくそんなリゾートの「夜」をも演出してくれる。いわば「Feel fine!」と「Like a star in the night」の合体か。
様々な意味で,これからの倉木麻衣のグローバルな活躍を示唆してくれる曲だ。
控えめなフェイクと無理のない声域で歌われるこの曲は,目新しさはないものの倉木麻衣のボーカリストとしての魅力を引き出し,彼女の新たな“夏の定番”となるだろう。
ともあれ,“変わらない地球”の大切さを歌いながら,“I feel now and change the world.”と,それをよりよいものに変えていこうという宣言は,この曲を新たな地球市民のアンセムとしているのだ。
「SAFEST PLACE」
ダイアナ・ロスの「イフ・ウィ・ ホールド・オン・トゥゲザー」を思い出させる,R&Bの黒人歌姫を髣髴させる落ち着いたナンバー。しかしフランス語の使用により,シャンソン風の味付けも見事。大野愛果の絶妙なメロディ。
アルバムのラストナンバーの位置が似合いそうな印象深い曲だ。
久しぶりのまっすぐなラブソングであるが,歌われている世界は「僕」という男性一人称と,「気づいてほしいの」という女性語が工作する摩訶不思議なMaiワールド。…深く考えない方がいいのかもしれない。
“Je suis fou de vous.”とは“I'm crazy for you.”というような意味。「あなたに夢中」ということか。70年代に一世を風靡したフレンチポップスの旗手ミッシェル=ポルナレフ(Michel Polnareff)の名曲「Love Me, Please Love Me」の中でも使われている。
もう一言付け加えれば,ミキシングの見事さに座布団1枚!と言いたい。
このCDにおけるボーカルの定位は見事で,スピーカーとスピーカーの中央にぽっかりと浮かぶ倉木麻衣の唇のイメージは,「遥かなる影(Close To You)」のカレン=カーペンターを思い出させる。いい仕事をしている。