"Love,needing"
倉木麻衣,2005年最初のリリースは彼女の原点でもある「Love, Day After Tomorrow」を髣髴させる黒っぽいR&Bナンバーである。
Mai-K.netの試聴コーナーで一部を聞くことしかできないうちは,あちらこちらから賛否両論の声が聞こえてきた。
それまでの「爽やかさ」を基調とした倉木の曲とは一線を画すヘヴィさを持つため,かつての倉木に慣れ親しんだファンには戸惑いを感じさせてしまうようだが,この流れは実はしばらく前からあった。
前回作Yoko BlackStoneのペンになる「愛をもっと」は秀逸なR&Bナンバーであったが,倉木は卓越した歌唱力で巧みにコーラスワークをこなし,聞くものに新たな倉木の姿を知らしめた。実はこの「Love,needing」はこの曲の延長線上にある。
というのも,倉木は一貫して「無償の愛」「天上の愛」であるアガペーを歌い続けてきた。そのため倉木はあたかもピーター=パンのような中性的な魅力を持ち味とし,よく言えば「清潔感溢れる」,少し批判的に言えば「無害な」青少年向けのアイドル=アーティストとしてJ-POP界に君臨してきた。しかしどうやらその倉木も22歳になり,大学卒業という節目を迎え,大きく舵を切ってきたように思う。
その最初の表れがセクシーさを強調したジャケット写真であった。ファンBlogの記事を読むと,多くのファンがその変化に衝撃を受けているようだが,これは序の口で,音楽自体も非常に艶のあるものに変わってきた。
ところが発売され,実際に全曲を通して聴くことが出来るようになると評価がまったく変わってきた。「明日へ架ける橋」のときはコアなファンの間でも評価が二分していたが,今回はBlog開設者を中心に非常に評価が高い。うまく行けば新たなファンの獲得に貢献できるかもしれない。
今回はタイアップなしということで,純粋に楽曲の質で勝負しなければならない。このタイアップ全盛時代においてこれは大きなハンディになるのではないかと危惧されるが,GIZA側はプロモーションの原点に戻って,ラジオ出演やPVオンエア中心のプロモーションを行っている。
これらはかなりの分量に上り,久々に積極的なプローモーションの姿勢を感じることが出来,ファンとしては気持ちがいい。以下に雑誌掲載情報・ラジオコメント出演情報を掲載するが,(Mai-K.netより)この効果はこれから検証していきたい。
■雑誌掲載誌 (1/17現在)
発売日 | 雑 誌 名 |
---|---|
1/14 | 「WHAT'S IN」 |
1/14 | 「CDでーた」 |
1/15 | 「Music Freak」 |
1/24 | 「B.L.T」 |
1/25 | 「デジモノステーション」 |
1/27 | 「J*groove magazine」 |
1/28 | 「oricon style」 |
■ラジオコメント出演 (1/17現在)
放送局 | 放送日 | 番組名 | 放送時間 |
---|---|---|---|
FM yokohama | 1/17〜21 | “DAYLIGHT SPLASH”内「STAR BISCUITS」 | 15:00〜 |
FM yokohama | 1/25 | “ザ・ブリーズ” | 9:00〜13:00 |
FM yokohama | 1/23 | “ALL THAT DVD” | 21:30〜22:00 |
FM FUJI | 1/24〜1/28 | “POWER STUDIO FROM FUJI” | 10:00〜16:00 |
FM FUJI | 1/27 | “BRAND-NEW FREEDOM” | 6:00〜9:30 |
NACK 5 | 1/27 | “NACK ON TOWN” | 13:00〜17:00 |
TBS-R | 1/23 | “音泉(おんせん)” | 19:00〜20:00 |
LF | 1/25 | “知ってる?24時。” | 24:00〜25:00 |
NHK-FM | 1/21 | “ミュージック・スクエア” | 21:00〜22:35 |
ZIP FM | 1/24〜1/27 | “EVENING DRIVE” | 16:30〜20:15内、20:00頃 |
FM 大阪 | 1/26・27 | “Radio On The Street” | 17:00〜20:00 |
α-STATION | 1/22 | “J-AC TOP 40” | 14:00〜19:00 |
Kiss fm | 1/25 | “Kiss MUSIC PRESENTER” | 16:00〜19:00 |
ABCラジオ | 1/29 | “ミュージックパラダイス” | 22:00〜25:00 |
MBSラジオ | 1/21 | “U.K.ビートフライヤー1179” | 21:30〜24:00 |
曲自身に触れたい。
「原点を感じさせる黒っぽいR&Bナンバー」と書いたが,特に冒頭のイントロとかぶる倉木のささやきは,あたかもダイアナ=ロスやジャネット=ジャクソンの楽曲のような洋楽テイストを感じさせ,その英語詞の多用ともあいまって「倉木麻衣論」で指摘したように「2段階鑑賞法」によって深みがある鑑賞が可能になる仕上がりとなった。
なお,このつぶやきは You know, I know what happened to me, but, Only one thing, so, Love,needing. と聞こえる。
ねぇ,私に何が起こったか,そんなことは分かっているの。でも,私には愛だけが必要なの。
詞は,パーソナルな愛であるエロースを声高らかに歌ったことにはデビュー当時からのファンを中心に違和感を感じる向きもあるようだが,ここは大学卒業を控え「大人のシンガー」への脱皮を図ろうとする倉木側の積極的な意図を読み取りたい。
ともあれ,「明日へ架ける橋」を最初に聞いたときよりも強いインパクトを感じるのも事実。同時期に発売されるシングルには強力なものが多いが,ヒットチャートの動きにも注目したい。
"Moon serenade, Moonlight"
このカップリング曲はCDがリリースされるまでまったくといっていいほど情報が出てこず,謎のベールに包まれていた。しかし,私はCDを手に取り一聴しただけで大きな感動を覚えた。
これは私だけではなく,この曲はあちらこちらのBlogやファンサイトでもきわめて人気が高いようだ。
私が最初に感じたことは,この曲は1980年代の(あまりヒット曲を出さなくなったころの)ポール=マッカートニーの曲のようなムードを持っているということ。特に,マイナーな曲ではあるけれど「Once Upon A Long Ago」(アルバム「All The Best」収録)や,「Hope of Deliverance」のようなテイストを感じる。この時期のマッカートニーはがむしゃらにヒットを狙うのではなく,自分の好きなタイプの曲を,自分なりに楽しみながら演奏するという時代であり,その意味で逆に彼の本質がよくうかがわれる時期でもある。そういった感覚を持つ曲であるから,私の心の琴線をダイレクトに刺激するのかもしれない。しかしながら,さらに言えばマッカートニーの曲は,この時期には「その音符は何か違うなぁ」という日本人には違和感を覚えさせるメロディラインが目立つのだが,徳永のこの曲は日本人の心にぴったりはまる「予定調和」的な美学によって成り立っている。「本家」のマッカートニーよりもこの徳永の曲の方が日本人受けするであろう。
歌詞はややステレオタイプでそれほど新鮮さを感じさせないが,"Don't Give Up!"を連発するところなどいつもの倉木節を感じさせ,新たな「always」となるかもしれない。とにかく,あまり言葉をいじらずに心の中の声に素直に従っているようなイノセンスを感じさせる。自分を「私」と呼ぶときの倉木はいつも“かわいい女”になるが,今回もその傾向は変わっていない。「月」を歌ったスタンダードナンバーになる可能性を秘めている。
徳永暁人という作曲家は,今までストレートなロックナンバーを書く人というイメージが強かったが,前作「明日へ架ける橋」と今作によって,「正統派バラード作家」としての地位を確立したといえよう。
"明日へ架ける橋〜ballad ver.〜"
既出曲であるが,2004年紅白歌合戦での熱唱によって,世間に強いインパクトを与え,新たな倉木麻衣のイメージを確立した曲。このバージョンは紅白歌合戦で実際に歌われたものとは一部アレンジが異なるが,あのときの感動をほぼ忠実に再現している。
私が思うに,倉木麻衣を倉木麻衣足らしめる最高の魅力は,決してそのルックスや楽曲のよさにあるのではなく,その「声」の持つイノセントな透明感である。今回,伴奏をピアノとコーラスだけという最もシンプルな構成にしたことにより,その「声」の魅力が増幅され,シングルバージョンよりもさらに感動的な仕上がりとなっている。もはやクラブ仕様のリミックスの時代ではないと思うが,このような試みはぜひ続けてほしい。
また,CDケースもマキシシングル仕様ではなく,今回初めてアルバム仕様のジュエルケースとなった。それに伴い封入されている歌詞カードも複数ページの豪華なものになったが,価格が前作よりも260円高く設定されたことには賛否両論がある。
ただひとつ残念なのは,前作までほぼ一貫して収録されていたタイトル曲のインストゥルメンタルが存在しないことだ。"Love,needing"は難曲ではあるが,歌自慢の女性たちの間ではカラオケでこぞって歌われそうなムードを持つだけにもったいない。また,「明日へ架ける橋〜ballad ver.〜」のカラオケ版があれば,男性でも歌うことが出来るのにと思うとやや残念な気がする。