最後の曲「Tonight, I feel close to you」 にはさらに注目したい。

   この曲は台湾の歌姫,孫燕姿(ヤンツィ)とのデュエットになっている。先方からオファーがあったということだが,次々に日本のアーティストがアジアに進出している昨今,倉木のアジアツアーの可能性も感じられて興味深い。

   曲は全編英語で歌われる。倉木自身が

  「あえて英語にしたのは、日本語だとストレートに見えたり伝わったりするけど、英語だと恋愛でも友情でも幅広く取れると思うし、メロディを聴いて色々とイメージが膨らんで壮大な感じになるかと思って。」(mfm)

と語っているように,あえて「洋楽」として聴けということのようだ。共同作詞者に彼女の音楽ディレクターである西室斗紀子氏が挙げられているので,倉木の日本語詞を西室が英訳したのかとも考えたが,詞のフィーリングはいつもの倉木節。随所にアドバイスを受けたというところであろうか。韻を踏んでいないところから見てもいわゆる「プロ」の作詞家の影は感じられない。使われている表現も,先行する洋楽の名曲の中に散見されるものが多く,いつもの倉木の英語作詞法の轍を踏んでいる。全体を通して感じられるのは,友情のすばらしさを歌ったサイモンとガーファンクルの名曲「明日に架ける橋」(Bridge Over Troubled Water)の影響であるが(When I need a friend, you are there right by my side.=And if you need a friend, I'm sailing right behind.等),そのほかにもカーペンターズの「遥かなる影」(Close To You),ビートルズの「ヘルプ!」(open (my) door),ジョン=レノンの「イマジン」(I wish we could stay as one.=And the world will live as one.)などの影響が見える。詞を訳出することは倉木の意思から考えて本意ではないが,中学生のファン等でお困りの人もいると思うので,大意を訳出しておく。ここでは「友情」を前面に出してyouを「君」と訳しておくが,「あなた」と訳せば恋愛の内容にとることができるだろう。ともあれ,このコラボレーションは倉木のキャリアの幅を大きく広げることになった。この曲がシングルカットされてもいないのに,「Wish You The Best」に収録されていることを考えても,この曲に対する倉木自身の思い入れの深さと,アジアマーケット重視の姿勢が見て取れよう。


目を閉じて君の気持ちを想う
時は過ぎ 僕は影のように彷徨う
どこをどう歩いているのかさえ分からない
君が僕の心に触れれば 息もできなくなる

風に乗せてそっとささやいてみる
きらめく星を愛に満ちた夢で一杯にしよう
連れて行って欲しい 君にならついて行ける
どこへ行けばいいのか教えてくれる

今夜は 君を身近に感じる
君は僕の心の扉を開けて 空を明るく照らしてくれる
誰かが必要なとき 君はすぐそばにいてくれる
このまま一緒にいられればいいのに
このままずっと一緒にいられればいいのに

昔はいっぱい泣いたね
でも 君はきっと素敵な明日が来るって約束してくれた
あの歌を演奏(やって)よ
一緒に聴いて この苦しみを吹き飛ばしたいから

青い空から雨がやさしく降り注ぎ
花が咲く 人生は神々しく輝くよ
一条の陽光のように 君が僕に本当の世界を教えてくれる 君にならついて行けるね

こんなすばらしい世界で こんなにもも愛されて
夜空で一番明るい星を探してみよう
君は僕に愛って何なのかを教えてくれたね
怖がらなくていいんだ そのままでいいんだよって
僕にはこの愛が必要 今まで分からなかったけど

今夜は 君を身近に感じる
君は僕の心の扉を開けて 空を明るく照らしてくれる
誰かが必要なとき 君はすぐそばにいてくれる
このまま一緒にいられればいいのに
このままずっと一緒にいられればいいのに


 ビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」に対する「ホワイト・アルバム」のような位置にあるのだろうか。「FAIRY TALE」「アーティスト」となった倉木はこのアルバムで我々に「本音」をぶつけてきた。ジャケットも今までの「がむしゃらさ」が消え,余裕が見られるデザインとなった。我々もその耳ざわりのいい音楽に酔いしれるだけではなく,彼女の意図をしっかりと理解しながら,今後一層の発展を見守っていきたいものだ。


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